一通りの説明が終わり、選手たちが控え室へと戻っていく。関係者は談笑をしているのだけど、程度の差こそあれ、選手たちからはピリピリとした緊張感が伝わってくるようになっていた。
12時。
いよいよ放送が始まった。
日本で、一番麻雀が強いやつは、誰だ!?
■A卓
出場者
著名人代表 鈴木大介
最高位 坂本大志
サイバーエージェント杯女流プロ代表逢川恵夢
全国アマチュア最強位 小島レボリューション
会場で最初に話を聞いたのは、鈴木大介九段だった。
大介さんとは実は過去に何度か同卓したことがあり(なのでここでも「大介さん」と書かせていただく)、この方がめちゃくちゃ強いのは重々承知している。
ただ、この日について聞くと
「調整が全然できていなくて、最初は牌が手に馴染まないんじゃないかと思うので心配です。できれば西家か北家を引きたいんですけど」
と、
少々弱気にも取れるコメント。まあ、大介さんらしいと言えばらしいかもしれない。
涙の初戴冠でこの場に名乗りを上げた、坂本大志最高位。
近藤誠一プロに続く「最強で最高」への思いを聞くと
「続きたいですよね。僕が取ると4代目なんですよ。飯田(正人)さん張(敏賢)さん、近藤さん。その偉大な3人に続けてなれればいいと思います」
最高位のプライドを胸に、最高位戦プロ麻雀協会の仲間の期待を背負い、最強位へ向けて出陣する。
女流雀王としてこの舞台に乗り込んだ、逢川恵夢プロ。
話を聞くと最初に
「こういうのめちゃくちゃ苦手なんで、うまいことカットしてくださいね」
と断りを入れた。
「どこの卓もそうですけど、みなさん強い人ばかりなので、あまり気負わず、いつも通りの麻雀を打つように心掛けています。こういう大きい大会でいつも通り打つというのはすごく難しいことだと思うんで、そこを特に重要視しているというか。勝っても負けても、いつも通りの麻雀を打てないと後ですごく後悔することになるので、そこ『だけ』は頑張りたいと思います」
多少の調整はしたが、基本ノーカットである。
非常に素晴らしく、カットの必要性などどこにも感じない。
また、
「ツイていなくて勝ちきれると思うほどなめてもいないですし、ツイていても勝てないと思うほど、他の人と比べて雀力が低いとも思っていないので」
というコメントも、非常に印象的だった。
20年以上も近代麻雀を読んできたという小島レボリューションさんにとって、最強戦ファイナルは夢の舞台である。
そしてこれから戦うのは、間違いなく過去最強クラスの相手だ。
「小手先では通じないのは分かっているので、楽しむことだけがアマチュアの強みとして、楽しみたいと思います」
一般予選を勝ち抜いたアマチュアとして、緊張は相当なものだろう。
ただ、この日は小島さんも所属するアマチュア麻雀党派「刮目党」のメンバーであり、キンマweb観戦記者でもある真中彰司さんも会場に来ていた。
近くに仲間がいる、それだけで心に一本、芯が通ったものになるのだろう。
「応援してもらっているたくさんの人たちがいますので、恥ずかしくないように打ちたいなというひと言です。これから麻雀をはじめようと思っている人が一人でも増えたらうれしいと思っています」
そう言って、アマチュア最強位は卓についた。
小場を制したのは、豪腕・鈴木大介の一撃だった。
帰ってきた大介さんはこの一戦を「ラッキーだった」と振り返ったが、決してそれだけではないのは、試合を見ていた人たちは十分分かっているだろう。
この後は
「見ているか、外出するかの二択で迷っているところです」
と話していたが、こういう飄々としたキャラクターも、この方の魅力だ。
坂本プロは、
「満貫までは条件が変わらないのでいいと思っていたので、ハネ満はちょっとキツかったです。オーラスでは延命して、チャンスを待つしかできなかった気がします」
と語った。
確かに、難しい試合だった。
しかしその中でも、最高位としてベストは尽くした、そんな一戦だっただろう。
「大介さんが強かったですね。最高位として、またこの舞台に帰ってこられればと思います」
敗れた相手を称賛しつつ、来年を見据える最高位の姿が、そこにはあった。
逢川プロは、
「見ている方にちょっとでも楽しんでいただけたなら良かった」
と第一声を発した。
しかし、やはり緊張やプレッシャーがあったのか、試合後のインタビューでは
「いつも通りの自分なら鳴いていた牌を鳴けなかった」
と語っている。
「悔しかった、以外に何もないですね」
明るいキャラクターながら、悔しさを隠そうともしない様子には、非常に好感が持てた。