「Mリーグは攻撃型が合う」という旨の発言をしていた。
これは亜樹が昨シーズンからMリーグで打って得た実体験から語っている印象だ。
そして亜樹は自他共に認める守備型だ。
「このままでは勝てない」
心のどこかにそういう思いがあったのかもしれない。
ただ、今までずっと打ってきた「型」を変えるのは本当に大変だ。ともすればバランスを崩し、以前よりも勝てなくなってしまう危険すらある。しかし、それでも亜樹は変わろうとする道を選んだのだ。最初は痛みを伴うかもしれないが、それでも最終的に勝ちに近づけるのならそれも必要経費だと。
南1局1本場もそうだった。
下家の松本が明らかにマンズの仕掛けを入れている。
そこへこの手牌。亜樹は長考した。ピンフドラ1の手で、下家のホンイツ色であるターツを外すなんて許されるのだろうか。今までなら、やを選んでいたのかもしれない。
しかし彼女は…
打。手牌と共に、自分も歩を進めることを選んだ。
この日は噛み合わなかったが、近いうちに花開くに違いない。
少し時を戻して南1局。
萩原のリーチを受けた、たろうの手牌。
234の三色は崩れてしまったが、親でタンピンのテンパイだ。
安全牌はない。ソウズは良さそう。
ドラを一発で切らないといけないが、パッと見リーチしかないように思える。
要素を挙げれば挙げるほど、ますますリーチ寄りになってくる。
しかし、たろうはこの手牌を前に12秒の時間を使った。
私はこの12秒間に「Mリーグの重さ」を感じた。
このドラで萩原に一発放銃すると、ラスになる。そしてそのままラスを引けば、残り20試合のドリブンズにとって、もうとんでもなく重いマイナスポイントがのしかかるのだ。
この手にその運命を託して良いのか。
控室で待っている仲間の顔を浮かべ、そして昨日プレミアムナイトで応援に駆けつけてくれたドリブンズファンの顔を浮かべた。
たろうはもちろんこれまでも有名な打ち手ではあったが、Mリーガーになりこれほど多くの人に応援された経験は、これまでになかっただろう。
12秒は確認の時間。
(この手に託していいよな?)
仲間とファンに確認するための時間。
著書「ゼウスの選択」で「麻雀はただのゲーム、人生とか美学などを持ち込むのはくだらない」と語っていたたろう。言いたかったこととは少し違うかもしれないが、このは、いつも切るとは違う何かが乗っかっていたのではないだろうか。
一発ツモ。裏が乗って6000オール。
常に綱渡りのドリブンズが、今日もその細い綱を渡り切った。
手順的には誰もがこう打つ、いわゆる手なりのアガリだ
しかし私はたろうが使ったこの12秒間が一番印象に残った。
最後は萩原。
東3局。
松本のリーチに一発でを切った。
たしかにリャンメン確定で、三色の見える良い手牌。
とはいえ、松本は親だし、はかなり厳しい牌だ。
逆に言うとここで松本にアガられたら松本の連勝が濃厚になる。
放銃したらラスになってしまうかもしれないが、誰かが松本の首に鈴をつけなくてはいけない。俺が行く!と、腹をくくったのだと思う。
次巡、ツモったのは
三色にならない。
即リーチにいくかと思ったが、萩原は柔らかく打。高く、安全に押し返す方針だ。
しっかりテンパイしてリーチ!
しかし、結果は松本に放銃となった。このあと、萩原は何度も、本当に何度もリーチを打ち続ける。
東3局 追っかけリーチ
東4局 3フーロ親ハネテンパイ
南1局 先制リーチ
1本場 追っかけリーチ
2本場 先制リーチ
どれもマンガン~ハネマンクラスの本手だった。