ミスを乗り越え勝利のために
猿川真寿、逆転のモンキーマジック
文・東川亮【金曜担当ライター】2024年1月12日
第1試合
東家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
南家:猿川真寿(BEAST Japanext)
西家:勝又健志(EX風林火山)
北家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
「たぶん、Mリーグのなかで一番恥ずかしい」
大和証券Mリーグ、1月12日の第1試合に出場した猿川真寿は、試合後のインタビューで自らのボーンヘッドについて切り出した。
南2局。
(右腕の影で見えにくいが)を引き入れてテンパイした猿川は、を切っての待ちではなく、を切っての待ち、変則3メンチャンに受けてリーチをかけた。
は2人のリーチに対して通っておらず、は既に場に4枚見え。対しては現物だったからだ。
だが、改めて猿川の河を見てほしい。8巡目にが切られており、フリテンになっている。しかも、待ちに受けていれば勝又が直後に切ったを一発で捕らえていた。猿川は、リーチの直後にフリテンに気付いたという。
この局は早々にリーチをかけた勝又に対し、寿人がと暗槓をして真っ向勝負の姿勢、しかもが新ドラでモロ乗りした(そして #槓全メシ完全メシ祭 が発生した)、緊迫の場面だった。
勝又・寿人の2軒リーチを受けながらテンパイ、しかも自身は負けている親番で逆転の勝負手。刻一刻と変化する状況のなかで、フリテンが頭から抜け落ちた。よくあるミスだが、ここはMリーグ。猿川は「フリテンに気付いていれば待ちでリーチしていた、あんなにファンの方をがっかりさせる選択もなかった」と詫びた。
3軒リーチの勝者は勝又。リーチツモピンフドラ裏裏のハネ満。裏ドラは猿川にも乗っており、切りリーチをしていれば、こちらもハネ満になっていた。
18000+供託2000点の加点が、6000+供託1000点の失点。差し引き27000点、順位点も考えればさらにその差は大きくなる。ましてや、BEAST Japanextの最下位という現状を鑑みれば、まさに痛恨。だが試合が終わっていない以上、今は残る2局に全力を尽くすしかない。
南3局、猿川に先制テンパイが入った。カンチャンから埋まればすんなりとリーチに踏み切れたが、から入ったことで、カン待ちかカン待ちかの選択が生まれる。
猿川の選択は、切りカン待ちリーチ。いわゆるモロ引っかけ、カン待ちでも中スジの待ちにはなっているが、点数状況を考えれば出アガリよりツモで全員にダメージを与えたい。堀が早めにピンズの数が小さいほうを切っていることから、出アガリよりもツモれそうな待ちを選んだと思われる。
は全て山に残っていた。そして宣言牌を勝又に鳴かれて一発こそ消えたものの、すぐにツモアガリ。リーチツモドラ、そして裏が1枚乗ったのが大きい。2000-4000の加点で、他3者との差を一気に詰めた。
迎えた最終南4局、猿川のツモが伸びて1シャンテンになり、少考。1300-2600ツモか、満貫出アガリなら逆転で単独トップという状況、ピンフ形の手牌でソーズが一気通貫になれば文句なく条件クリアだが、一方でソーズを見切ってタンヤオピンフになってもツモ裏条件のリーチがかけられる。
猿川が選んだのは、ピンズの伸びを消す打。が2枚切れとはいえ、やはりソーズの一気通貫はまだ見切れないし、受け入れが広い。そしてマンズがパラパラと切られていることで、マンズの伸びのほうを少しだけ優先した形だ。
次巡、を引いてテンパイ。一気通貫は崩れたが、ツモならタンヤオがついて無条件、ツモでも一発か裏が絡めば逆転トップ。一瞬の間を置いて、猿川はリーチを宣言した。間があったのは、出アガリのパターンを検討したのだろう。アガり方によっては、ラスのままで試合を終わらせてしまうからだ。
ツモられても振り込んでもラスの寿人は、ギリギリまでは押す。その寿人にが暗刻になったことは、BEASTサイドからすれば悲報に見えるが、安目ロンのパターンが減ったとポジティブに考えられなくもない。
勝又も、静かにテンパイを入れていた。トップ目の堀が現物を抜き打っていてかなりのオリ気配、アガれずともテンパイを取りきれれば逆転トップの目もある。
麻雀は、ワンミスで戦局が一変するゲームだ。そして人間である以上、誰しもミスは起こりうる。けれども試合が続いている以上は、ミスによる結果も受け入れた上で、勝つためにやるべきことをやるしかない。そうしてツモ山に伸びた猿川の手に、
それは訪れた。逆転の、ラスからトップへの、モンキーマジック。
裏ドラは乗らず。つまり、トップになるにはをツモるしかなかった。
残り2局での、鮮やかな逆転劇。2着の堀とはわずか100点差、しかしそれは絶対的な順位の優劣である。猿川は確かに、チームへトップを持ち帰った。この日は2戦目に出た菅原もトップを獲得し、BEASTは同日連勝。試合は個々が独立したものではあるが、チームリーダーである猿川の逆転トップがチームに勢いをもたらし、菅原の勝利も呼び込んだ、と思いたくなる1日だった。
勝利のポーズは、年が変わってもまだまだぎこちなく、照れもありそうだ。
だが、何があっても戦いの腕は決して下ろさない。最後の最後を迎える、そのときまで。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。