男の花道、
渋川難波がそこにいる意味
【B卓】担当記者:東川亮 2024年7月14日(日)
なぜ、彼なのだろうか。
麻雀最強戦2024「男の花道」には、各団体の代表クラス、大ベテランがずらりと顔をそろえた大会。8名中7名が50代以上、麻雀プロとして一線を退こうとしている打ち手もいる中で、30代の打ち盛りである渋川難波は、年齢的にもキャリア的にも場違いに見えた。
だが、彼とて獲得してきたタイトルを見れば、重鎮たちにひけをとらないものを持っている。B卓の相手は、近藤誠一、藤崎智、瀬戸熊直樹。はたして渋川は、大ベテランたちに何を示そうというのか。
東1局は、渋川はカン待ち、三色確定のリーチをかけた。赤のない最強戦ルール、ドラも手牌にないとすれば、打点を作るには手役が必要になる。第1打からの意図をしっかりと形にした、狙い通りのテンパイ。
藤崎の追撃リーチを受けるも振り切り、見事にツモって2000-4000。まずは先手を取ることに成功する。
東2局も、カン待ちから待ちに変化したところでリーチ。役なしドラ無しの愚形リーチは押し返しが怖い。ラフに攻めない丁寧さは大事だ。
だが、ここは藤崎の追っかけリーチに放銃。藤崎は、テンパイ直前に渋川のをスルーし、そこを待ちにして打ち取っている。安手でさばきには行かず、しっかりと本手をぶつけて戦うやり方は、こちらも熟知している。
東3局では親の近藤が1枚切れの単騎リーチを一発でツモって2000オール。次局も1300オールは1400オールツモと加点する。
東4局3本場には、瀬戸熊の早いリーチに押すと、リーチチートイツドラドラに裏裏までついた12000を放銃。やはり、この相手は一筋縄ではいかない。各者にアガリが出るなかで、2度の放銃にまわった渋川は12800点持ち、ラス目で南場を迎えることになった。
南2局1本場は、ベテランたちの思惑が交差する。近藤が役なしドラ3の手でテンパイするもダマテン。現状通過ポジションで終盤に差し掛かろうという12巡目、もちろんアガれば決定打になるが、マンズが高い近藤に対してがリーチをして簡単に出る牌とは思えず、だったらダマテンで安全を確保しつつツモれればラッキー、というくらいの構えか。
瀬戸熊も高目456三色のピンフテンパイを入れるもダマテン。このままアガれるし、なら打点も確保。終盤の追撃も警戒し、守備力を保つ。
リードする二人とは対照的に、追う藤崎は積極策に出た。のシャンポン待ち、ツモり三暗刻のリーチだが、河にはが2枚、が1枚見えていて、待ち枚数は目に見えて残り1枚。ただ、残る1枚は山に残っている公算が高く、ツモれば満貫スタートと打点は十分。
このをつかんだのが瀬戸熊。オリの選択も、もちろんあった。しかしドラが2枚見えて藤崎の高打点の可能性が下がっており、自身の待ちは悪くないということで、1枚切れの字牌くらいはと、おそらく最後のプッシュだっただろう。
これが捕まるのも麻雀。いや、藤崎が捕まえた、と書くべきか。裏ドラが1枚乗って、トップ目の瀬戸熊から6400は6700の直撃。親番を落としていた藤崎だったが、これで一気にならびへと迫る。
南3局は瀬戸熊が渋川から2000を出アガリ。近藤が少し抜けて瀬戸熊と藤崎が競り、渋川は少し離れたラス目という状況でオーラスを迎える。だが渋川は親番、アガリを重ねれば逆転の目は十分にある。
勝負の南4局、藤崎が先制リーチをかけた。リーチピンフドラは、どこからの出アガリでも逆転で通過。放銃すると敗退の可能性がある近藤はオリにまわるが、後の2人はオリていてもアガられたら負け、間違いなく押し返してくる状況。
そして渋川が追いつく。待ちリーチドラドラは、ツモれば満貫から。勝たなければ活路は開かれず、あとは牌山の巡り次第。
さらに瀬戸熊も追いついた。役ありの待ち。アガれば勝ち。巡目的にも、流局は考えにくい。熱いぶつかり合いを制したのは──
親番の渋川。ツモでリーチツモイーペーコードラドラ、裏ドラは乗らずも4000オールで、全員が2万点台で横並びとなる。ただ、渋川は負けている状況で、できればもう一発、大物手がほしい。
そんな状況で、渋川に入った究極の大物手。三暗刻の手が、ツモり四暗刻に化けた。ツモって16000オールは言わずもがな、出アガリのトイトイ三暗刻、12000でも勝利はほぼ確定。
こういうところで役満を決めるとしたら、ある意味でそれも渋川らしい。
だが、勝ったのは藤崎。
ダブ、1300-2600は1400-2700。瀬戸熊をかわして2位通過を決める、しっかりと条件をクリアしたアガリだった。
この試合に臨むにあたり、渋川は疑問の声よりも応援の声を強く意識していたという。そして貫禄のある相手に負けないよう、ルックスから貫禄を意識。そして麻雀自体も、大ベテランたちを相手に堂々たる戦いぶりだった。介錯役、あるいは切られ役として、終わってみれば彼がここにいることで対局の注目度も上がっただろうし、結果的には後者となったが、役目は十分に果たしたと思う。
これから渋川は、長きにわたって人々に応援されながら、トッププロとして活躍していくだろう。そして彼が花道を歩むことになったときにどんな姿を見せてくれるのか、楽しみになった。もしかしたら、今とたいして変わらないのかもしれないが。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。