松本吉弘、
美しき戦いの先に挑む最強への道
【決勝卓】担当記者:東川亮 2024年11月17日(日)
麻雀最強戦「ザ・リベンジ」決勝。
今年の麻雀最強戦ファイナルに進む最後の1名となったのは「卓上のヒットマン」松本吉弘だった。
麻雀最強戦は一回勝負、勝った者しか次に進めない。勝てなかったのであれば、100点差の2着だろうがハコ下の大敗だろうが価値は一緒であり、勝者にスポットライトがあたって然るべきだ。
ただ、それでも敗者を語りたくなる対局はある。そして敗れた3人が素晴らしいからこそ、対局は、そして勝者は光り輝く。
■沢崎誠は静かに散った
この試合、沢崎誠の見せ場はほぼなかった。終始劣勢で、まともなテンパイすらろくに入らなかった印象だ。
唯一のチャンスと言えば、南2局で朝倉の先制リーチに追いついたところだろうか。最後の親番でオリる局面ではなく、ひるまずに無スジを押していく。
手牌をタンヤオイーペーコーに仕上げてリーチ。安目ツモでも満貫確定、ハネ満ツモにでも仕上げようものなら戦局は一変する。相手はもちろん、見ているものをも威圧するような独特のリーチモーションも、やはり健在だった。
しかしこの局を制したのは、2軒リーチの弾幕に、自らも武器を携え飛び込んだ松本。真っ向勝負を見事に制し、リーチツモタンヤオイーペーコー、2000-4000。
この局以降、筆者のメモに沢崎の名前は出て来ない。
もちろんチャンスはうかがっていただろうが、麻雀というものは、手が入らなければどうしようもないだろう。
ただ、振り返ると沢崎は、そうしたなかでも対局自体を壊さないよう、丁寧な麻雀に終始していたように思う。
この舞台のメインキャストとしてふさわしい一人だったことに、異論のある人はいないはずだ。
■谷井茂文が選べなかったルート
谷井茂文は、確かにこの対局をリードしていた。
序盤から中打点のアガリを重ね、オーラスをトップ目で迎えたが、南4局1本場で親番・松本に逆転を許してしまう。
そして、彼が対局後に触れていたのが南4局2本場、4巡目での選択だった。松本との点差は2900、自身の手は中の暗刻がある1シャンテンで、リーチをかければどんなアガリでも逆転。門前でのダマテン、あるいはポンでもツモか直撃で勝利という手である。
見た目の受け入れ枚数では同じ。谷井はを切った。
直後のツモは、明らかに裏目の。この後、谷井は朝倉・松本の2軒リーチに挟まれ、追いつけないまま局を終えた。
試合後、谷井は対局を振り返って「楽しかった」と笑顔を見せつつ、「もしを捉えていればカン待ちのリーチになっていたと思う。その世界線が見たかった」と語った。後の展開を追えば、結果は変わらなかったかもしれない。ただ、やはり勝利のみにしか価値のない戦いにおいては、そんな「たられば」を追ってしまいたくものだ。たとえ、意味がないと分かっていたとしても。
■朝倉康心はやはりスターだった
谷井が土俵に乗れなかった南4局2本場で、見せ場を作ったのは朝倉康心だった。
谷井と同じく4巡目の選択。朝倉の条件はハネ満ツモで、手牌はチャンタ三色、あるいはチャンタダブに仕上げればリーチツモで条件はクリアできる。では、何を残すか。
一見すると、孤立のはかなりいらなそうに見える。しかし朝倉が切ったのはだった。ダブツモが一手遅れになることを承知の上で、からの伸びを見た一打。が1枚切れ、が2枚切れとは言え、思い切った決断。
これが決まった。を引いてペンターツができ、
ドラの8mを引き入れてリーチ。ダマテンでもツモればハネ満だが、リーチをすれば松本からの出アガリでも谷井まで逆転できる。アガリ牌のも山にしっかり残っており、アガりきれれば最強戦史に残る、また朝倉のプロキャリアでも燦然と輝く伝説の一局となったかもしれない。実況の日吉辰哉はそれを「神がかった」と評した。
だが、この局は松本の追っかけリーチとのめくり合いとなり、松本に軍配。ライバルへの放銃、絶望的と思われた中で、
南4局4本場、朝倉は三倍満ツモ条件を満たすテンパイを入れた。清一色一気通貫イーペーコー、リーチしてツモれば11翻のペン待ちリーチ。
結果、この待ちは山にはなかった。
だが、最後の最後にこの手が入ることは、まさしくスターの証と言ってもいいのではないか。