手牌を見つめて微笑みを浮かべながら、黒沢はそう思っていたように見えた。
山にはもうなかった。しかし、はあと2枚。も残っている。
が、は多井のもとへ行ってしまった。これで残すは1枚だけ。
ラス牌を引くのは難しい。そうそうアガれるもんじゃない。
けれども、まるで決まっているかのように、黒沢はスッとを手繰り寄せた。
「いたーーーーーーーーーーーーーー!!!」
盛り上がる実況席。それと同時に、全国各地で歓声があがったことだろう。
前期、今期を通じ、黒沢のダイナミックなアガリを見て、何度声をあげたか分からない。黒沢は打法で、そしてそのアガリ形で、観る者に感動を与えてくれる選手だと思う。
リーチツモ三色赤赤、6000オールのツモアガリ。
これで、小林との差は46400点に。いよいよ108000点差トップラスも現実味を帯びてきた。
しかし、南1局1本場は、小林がツモチートイツ、800-1600は900-1700のアガリ。
黒沢の親が終わった。
親が落ちると大差をつけてのトップラスは難しい。
結局黒沢は1位になったものの、トップラス108000点という条件をクリアできずにこの半荘を終えることとなった。
厳しい条件ながら、「黒沢ならなんとかしてくれる」と雷電ファンは思っていたはずだ。そして、南場で6000オールをツモったときには「逆転があるんじゃないか!?」と見る者全てが感じた、そんな見事な黒沢の戦いぶりであった。
インタビューでは、
「今シーズン通してやりきった感もあります」
と語った黒沢。思えば、激動のシーズンだった。
開幕戦に勝利しての結婚報告。シーズン半ばでトップをとってのご懐妊報告。そして、チームをセミファイナルに導いた、
もちろん、ここでは書き切れないほど沢山の華麗なアガリもあった。
レギュラーシーズン、セミファイナルシリーズを通して、ずっとキラキラ輝いていた黒沢。
そんな大活躍だった2019Mリーグの、最後になるであろうインタビューでも、
「(条件が)厳しくなってからは、シーズン変わらずにずっと応援してくださってた方に、最後にここでお礼を言えたらなと思って(打っていました)」
と、黒沢はファンのことを思いながら話していた。
ファンの方々はきっとこう思っていたのではないだろうか。
お礼を言わせてもらうのは、見ている私たちのほうです。黒沢さん、本当に沢山の感動をありがとうございました。
どうか、お身体に気を付けて。そして、また、
このポーズをMリーグで見られる日が来るのを楽しみにしております、と。
京大法学部卒の元塾講師。オンライン麻雀「天鳳」では全国ランキング1位。「雀魂」では4人打ち最高位の魂天に到達。最近は、YouTubeでの麻雀講義や実況プレイ、戦術note執筆、そして牌譜添削指導に力を入れている、麻雀界では知る人ぞ知る異才。「実戦でよく出る!読むだけで勝てる麻雀講義」の著者であり、元Mリーガー朝倉康心プロの実兄。x:@getawonarashite