Mリーグいくさ物語
最速最強・多井隆晴伝
文・東川亮【木曜担当ライター】2020年11月26日
(パチパチパチパチ・・・)
11月も終わりに差し掛かってきまして、吹く風も冷たくなってきた時節でございます。
風と言えば、なにやら近頃は「風」「風」と多分に意識されている方もいらっしゃるようではございますが、風なんてものはきまぐれなものでして、吹いてほしいときに吹かず、吹いてほしくないときに吹くなんてのもよくあること。
そして、風が誰にどう利するかは分からないわけですから、人はまず自分自身の幹を太くし、根を張らなければいけないわけでございます。
今から登場するのは、長年にわたってそれぞれのやり方で自らの力を磨き、卓越した雀力を身につけた打ち手ばかり。
今回はその中から「最速最強」というたいそうな通り名を持つ男、渋谷ABEMAS・多井隆晴の一戦について、一席お付き合いを願いたいと思いますが・・・。
第2回戦
東家:朝倉康心(U-NEXT Pirates)
南家:近藤誠一(セガサミーフェニックス)
物語なんてものは、最初は穏やかに始まるのが相場。
しかしこの日はそうはいかなかった。
何と親番朝倉、東1局第1打でカン待ちのダブルリーチだ!
朝倉と言えば先日アガリ放棄のやらかしがあったが、髪の毛はキレイさっぱり、厄落としもバッチリ。
アガリも決めて気分スッキリといきたいところ。
さてみなさんはこういうとき、どのように打ちますでしょうか。
「ええい、どうせわかんねーやい!」とばかりにえいえいやあやあ、いらない牌を切っていく、そんな人もいるでしょう。
この男は、違う。
なんといきなりメンツから現物を中抜いた。
トイツのすら打たない多井隆晴は、やはり守備の人。
手が見合わなければ、ダブルリーチにだって甘い牌は打ちません。
そんな多井の手が止まった。
ここから何を切るか。
前巡に朝倉がをツモ切っており、を選んだっておかしくはない。
なんと多井、手をかけたのはドラの!
トイツで当たりにくいとはいえ、放銃すれば18000覚悟の強烈な牌。
「もしトイツで待ちなら、ダブルリーチなどせずヤミテンにするはず」
「単騎で当たるケースも非常に低い」
理由は想像してみれど、凡人に思いつくことなどこの程度。
どんな考えが頭の中にあったのか、これに関してはいつか本人に聞いてみたいものでございます。
を押した多井だったが、は最後まで打たない。
近藤の追っかけリーチにも対応し、結果は流局に。
いったい、この男には何が見えているのやら。
テンパイ料を払ったとはいえ、なんとも見事な打ち回しを見せた一局でございます。
高い守備力を見せつけた多井ですが、守備だけでは「最強」などとは名乗れません。
一転して鋭い攻撃を見せつけたのが東2局。
この局は全員が焦れったい展開が続き、朝倉が先制リーチをかけたのは局も終盤、15巡目。
一方で親の近藤も、単騎でタンヤオのテンパイを入れている。
この二人の一騎打ちかと思いきや、17巡目に多井がテンパイいたします。
とは言えツモ番はなく、ただの守備型ならば危険牌のは打たずにオリるのが定石かもしれません。
バランスを取るならを押してテンパイキープ、ひょっこり出アガリもうれしい。
しかし多井、ギロリと卓内をねめ回し・・・。