なんか分からんけど
超スゴいな!!
天才・堀慎吾は
目先に惑わずリアルを読む
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年11月22日
大和証券Mリーグにおいては、2021シーズンも日々熱い戦いが繰り広げられている。他者を寄せ付けない圧倒的な勝利には爽快感があるし、手に汗握る接戦も、我々をハラハラドキドキさせてくれる。
そのような戦いの中で選手たちは、深い読みや思考・洞察力、そして胆力から繰り出される、想像もつかないような一打を見せてくれる。スポーツの世界ではスーパープレーに観客や視聴者が熱狂するが、同じことが麻雀でも起きているのは本当に素晴らしいと思う。
第1試合
東家:本田朋広(TEAM雷電)
南家:朝倉康心(U-NEXT Pirates)
西家:茅森早香(セガサミーフェニックス)
北家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
東2局2本場。前局でアガって連荘した朝倉が好配牌を手にし、わずか4巡でリーチをかけた。タンヤオピンフ赤で打点も十分だ。
堀も手の形はかなり整っていた。しかし現物は出来メンツのしかなく、ドラのも浮いている。
堀はさほど時間を使わず、ドラのを切った。
朝倉は端牌から切り飛ばしての4巡目リーチ、メンツ手と考えればは通りそうではある。また、もしシャンポン待ちや単騎待ちなら巡目も早いだけに、形次第ではあるがいったんダマテンに受けてからの手変わりも考えそうだ。一方で、を打てば手が死ぬ上に、その後安パイが続く保障もない。だったらある程度手を組んで進めようということだろう。
とは言え、ドラである。一発放銃となれば満貫は確定、ハネ満、倍満だってあるかもしれない。もし、このがドラでなかったら、かなり多くの人がを切るだろう。しかしドラとなれば、だいたい通ると思っていても、万が一のことを考えれば切りたくなくて後回しにする人が多いのではないだろうか。
その後もある程度突っ張っていた堀だが、茅森の暗槓を受けてあっさりと撤退。この辺りの見切りは非常にドライだ。
朝倉のリーチは流局で不発。その後は各者がアガリ合う展開となり、堀がトップ目で南3局を迎えた。だが、ここは親の茅森がリーチピンフドラ赤の12000を朝倉から出アガリ、堀を猛追する。
南3局1本場は、本田が先制リーチ。リーチピンフでドラもなく、打点的には心許ないが、ここでひとアガリすれば次局に満貫ツモ以上の条件を残せる。本田とて、チーム状況が厳しいなかで何とかトップを持ち帰りたい。
このとき、堀は雀頭のない1シャンテンで、本田の待ちであるが1枚ずつ浮いていた。もしこのままテンパイすれば、少なくともどちらかが出ていくことになる。
堀が8sを重ねた。苦しい方から引き入れた、絶好の待ちテンパイである。打点もリーチピンフ赤、高目タンヤオで、満貫に仕上がればオーラスで茅森の満貫ツモ条件を消せる。通っているスジも少なく、ここはを打って追っかけるかと思われた。
しかし、堀は手を止め、何事かを考える。「リーチだけですよね?」実況の日吉辰哉が言う。少なくとも、見ている筆者もそう思った。
「うわああああああっ!!」
悲鳴に近い絶叫と共に、日吉は頭を抱えた。解説の土田浩翔もあっけにとられた表情を浮かべ、苦笑いしながら手元のメモへとペンを走らせた。堀慎吾、衝撃の止め。直後の本田のツモアガリが、なんだか遠い世界の出来事のように感じられた。
堀は試合後、について「一番濃い上に一番放銃になりたくない牌、ロンと言われたら高いケースがいっぱいある」と語った。たしかにドラそばのはドラ含みのリャンメン待ちに当たったときは、それなり以上の失点になる可能性がある。リーチピンフドラ、そこに裏ドラなど何かもう一役が絡んで満貫となってしまえば、堀はトップ目から3番手まで転落していた。そうなったとき、オーラスは茅森と本田がわずか500点差でトップを争う状況となるため、自身のアガリや連荘、順位アップはかなり難しくなっていただろう。
一方の切りだが、のワンチャンスになっていること、その後に出ていきそうなも自分がを持っていることで赤が絡んだリャンメン待ちには当たらないことで、に比べれば多少だが切りやすいとは言えなくもない。
そのような理屈は、言われてみれば確かに理解はできる。しかし、それでも、3メンチャンである。麻雀打ちなら誰もがほしい好形テンパイ、さらに自分の手の価値もめちゃくちゃ高い。通っていないスジも多い以上、勝負をかけてを打ち、放銃して「2000点でラッキーだった」と胸をなで下ろす打ち手がほとんどのはずだ。
ドラのは切るのに、は止める。いずれも自分の手牌だけでなく、相手の手や場の状況を見通した上での選択である。もちろん、読みの精度もすごい。そして、目先に惑わされず自身の読みを信じて打牌を選べることが、本当にすごいと思う。
そんな堀にぜひ聞いてみたいのが「もし重ねたのがだったら、を切っていたのか」。なら待ちでもない限りドラがらみで当たることはないため、切ってリーチをしていたと思われる。しかしもしかしたら、天才・堀慎吾であれば、待ちのパターンすら考慮して止めるのではないか。そんな気にすら、させてくれるのである。
堀慎吾、超スゴいな!!
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。