優れた読みを持つ
エース同士の対決
小林剛が仕掛けた細工とは
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年12月23日
エース対決。
12月23日の大和証券Mリーグ・第2試合は、こう表現するのがピッタリだと思う。多井隆晴・魚谷侑未・小林剛とチームのドラフト1位が3名そろい、勝又健志はドラフト順位こそ3位だったものの、2020シーズンではチームを優勝に導いた立役者である。
結果だけを先に言えば、小林剛が東3局1本場、南2局3本場と、2度のハネ満ツモを決めて勝利した。ただ、小林が「簡単な、誰でもできるハネ満」と表現したように、この2局は多くの人が同じように打って同じようにアガっていたのではないかと思う。
今回の試合はそれ以外の場面、特にアガリ以外の部分に見るべきところが多かった。それをいくつか、記事の中で紹介していきたい。
第2回戦
東家:小林剛(U-NEXT Pirates)
南家:勝又健志(EX風林火山)
西家:魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
北家:多井隆晴(渋谷ABEMAS)
東3局、親番の魚谷がダブポンから動き出す。手の中はソーズと字牌が多め、ホンイツで仕上がれば満貫、トイトイまで絡めばハネ満も見える。
ツモで、横伸びにもある程度対応できる形に。
そこへ引いてきたを、魚谷は手の内に留めた。ソーズのホンイツには全く不要、自身でやを切ってはいるが、このにマンズがくっつけば、逆にこれらの牌が盲点となって非常に鳴きやすくなる。ダブホンイツでもダブ赤赤でも打点は一緒。重ならない限り使えないよりは、こちらの方が臨機応変に対応していくことが可能だ。
結局は切り出すことになったが、手は十分形のホンイツ1シャンテンになっていた。ドラもツモ切っていて、迫力は十分である。
ここから、勝又が面白い対応をする。魚谷の手出しに合わせた小林のをチー、待ちのテンパイを入れる。
ただ、引いてきたは、魚谷のホンイツに対して相当危なく見える。ここはいったん現物を切ってテンパイ外し。
直後、それまでロン牌だったを魚谷がツモ切り。
勝又はこれをポン、単騎待ちでテンパイ復活。こういう鳴きは、を切る前にあらかじめ準備をしておかなければ、とっさに声が出ないこともある。最終的にはオリることになったが、この辺りの粘り方はさすがだ。
東4局、小林がオタ風のをポン。が一番右にあり、まさか小林ならここで片アガリのシャンポン待ちテンパイにとるのか、とも思ったが・・・
さすがにそれはない。のトイツ落としで、ホンイツへと向かう。
すぐにもポン。とりあえずは中ぶくれ単騎待ち・・・
!?
小林はを切り、単騎待ちに受けた。1巡前に切っていてフリテン。明らかに、何らかの作為がある。
本人いわく「勝負はこの後待ちが変わってから。そのときに最終手出しがかかで出アガリのしやすさが全然違う。相手の読みをずらすために、いったん単騎にした」。瞬間的にアガれる形を残すのではなく、後のアガリ率を高めるために細工を施した、ということだ。
また、小林は「残しにリスクはあるが、リスクを追うほど、の意味を考えてくれるメンツだと思っていた」とも語っており、対戦相手をリスペクトしたが故の選択だったとも言える。が全員に無スジだったのに対し、は魚谷に現物、多井のスジで、比較的安全度の高い牌ではあった。
ただ、小林の思惑がハマる形になる前に親番多井のリーチを受け、大きく迂回。さらに勝又のリーチまで受ける厳しい状況に追い込まれたが、何とか放銃は回避し、この局は追っかけリーチの勝又が多井に7700を放銃するという決着になった。
南1局2本場の多井。手牌にあるは、配牌から孤立で持っている牌である。ある程度手の形はまとまっているが、安全牌は確保しておこうという丁寧な構え。
中盤になり、手牌は一気通貫も見える形になった。を切れば、くっつきの候補が非常に多い。
それでも、しょせんは2シャンテン。トップ目・南場の多井は、このくらいの形から守備駒を減らすようなことはしない。
思うように手が伸びなかったことから、安全牌を抱えてあっさりとオリた。
直後、魚谷がタンヤオピンフ赤赤、8000点のダマテンを入れる。多井は、こういう状況もしっかりと織り込み済みだ。多井はこの日連闘となったのだが、トップで終えた初戦、そしてこの試合を含めて、放銃はゼロ。試合後には「トップを取りに行けば取れたかもしれない」と語っていたが、この日見せたような早い段階からの守備意識が、多井が3年半にわたるMリーグで安定した成績を残していることにつながっていると言っていいだろう。
最終局は魚谷が意志を持って引っ張ったペンターツを埋めてリーチ。ツモれば多井と同点2着、一発や裏ドラが絡めばトップもあり得る。