ツモの瞬間、
小さく強く響く声
そのとき、近藤誠一は
己の力を卓上に示す
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2022年3月3日
それは、Mリーグの歴史に残る名場面。
大和証券Mリーグ2020、2021年3月4日の第2試合。レギュラーシーズン敗退の危機を迎えていたセガサミーフェニックスを踏みとどまらせる、一発ツモ倍満での大逆転トップ。今なお語り継がれる、近藤誠一が生んだ奇跡の1局である。
あれから1年。
近藤は2021-22シーズンにおいて、苦戦が続いていた。しかし、目前に迫るセミファイナルを前に、その左腕が逆襲の狼煙を上げる。
第2回戦
東家:本田朋広(TEAM雷電)
南家:近藤誠一(セガサミーフェニックス)
西家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
北家:小林剛(U-NEXT Pirates)
その瞬間、時間は1年前に戻った。
近藤のドラ単騎リーチ一発ツモ、2000-4000のアガリで戦いは幕を開けた。ツモったのはくしくも、1年前と同じ。
だが、1年前と少しだけ違うところがあった。ツモの瞬間、近藤の口元から小さく漏れた「カッ」の声。かつて近藤がMリーグで大三元をツモったときなど、渾身のツモアガリのときに生まれる、ファンから「カッツモ」と呼ばれているムーブである。これで、近藤の大爆発を予感したファンは少なくはなかったのではないだろうか。
東2局1本場。チートイツの1シャンテンだった近藤は、3枚目のを残し、を切った。ここだけを見ると四暗刻を視野に入れたかのように見えるが、すでにをアンコから切り、それを松本がカンチャンでチー。その後、松本はをでチーして2枚切れの切り、テンパイ濃厚に見えることから、少し守備的に構えた。とはいえ完全撤退ではなく、テンパイすれば勝負、というバランス。
そして、残したが重なってテンパイ。勝負するならチートイツのみの2400では見合わない。親番ということもあり、リーチで圧力をかけつつ打点を狙う。
は松本の雀頭で、山には残り1枚だった。だが、
「カッ」
カッツモ、再び。
リーチツモチートイツ、裏裏で6000オールは6100オール。これぞ、ファンが待ち望んだ近藤誠一の姿だ。
さらに次局、近藤がテンパイ。赤赤で打点は十分、決していいとは言えないカンだが、リーチで畳みかける打ち手も多いだろう。
だが、近藤はテンパイを取らなかった。
このときの状況を見てみよう。場にマンズがほとんど切られておらず、南家の松本は4巡目にオタ風北をポンしてをトイツ落とし、マンズのホンイツが濃厚。そう考えると、カン待ちはいかにも心許ないように見える。実際、松本の手にはないものの、小林が3枚と本田が1枚持っていて、は山になかった。
テンパイ外しから、単騎を経て待ちテンパイは絶好、これを最終形として切りリーチでぐいっと踏み込む。
待ちのホンイツテンパイだった松本は、一発でつかんだを止めることはできなかった。
リーチ一発赤赤、12000は12600。目の前のテンパイにとらわれず、アガれる形を作ってしっかりとアガる、これぞ近藤の掲げる「大きく打って大きく勝つ麻雀」である。序盤に大量リードを作った近藤はその後も安定した戦いを見せ、終わってみればアガリ6回放銃ゼロ、64400点の大トップを獲得。一気に自身の負債を完済し、ポイントをプラス域へと戻した。近藤がらしさを発揮した一戦、セガサミーフェニックスにとって単なる一勝以上の意味を持つはずだ。
一方で、他の選手に見せ場がなかったかというと、そんなことはない。東2局では本田が役満・国士無双のテンパイを入れて視聴者を沸かせ、
近藤に手痛い一撃を喰らった松本も巧みな手順でアガリを重ねていく。
そしてオーラスは、小林と松本の2着争いの構図。この局は非常に見応えがあった。
小林の手。がトイツでリャンメンも3つ、アガるだけならどうにかなりそうだが、次局のことも考えれば可能なら高く仕上げ、松本との差をつけたい。
対して松本の手はあまりに悪い。ただ、1000点でもアガれば2着浮上なだけに、まずは最も使いにくいオタ風のドラから切っていく。
2巡目、松本の切ったを小林がチー。このとき、小林は松本とのアガリ競争、スピード勝負を考えたときに、近藤の協力が得られる松本に対して自身が不利だと考えていた。それゆえ、とにかく速度重視の進行。や三色などでのアガリを見る中で、ドラを使ったり赤を引いたりしての打点アップが図れればなお良しの構え。
さらにもポン。これで役ができた。