日向藍子が拒んだ幕引き 期待値の向こうで生み出されたドラマの行方は──【須田良規のMリーグ2021セレクト13】

ただ【5ピン】がアンカンされているので、【3ピン】【7ピン】は瀬戸熊からの直撃で2着浮上は見込めるかもしれない。

日向が【西】を切る。

これを西家瀬戸熊が叩いた。

序盤のあの手牌から、【西】を重ねてここまで育て上げていた。
もちろん瀬戸熊もこれをアガれば待望のトップ。

そしてハネマンになるため、日向が打つと最悪の結果で終わるところにもなっていた。

さらにすぐ松ヶ瀬がリーチ。

日向は一発目に無筋の【4ソウ】をツモ切り。

もう、押すしかないのである。

そして瀬戸熊にもテンパイ。

3人テンパイだ。

これはもちろん日向の選択が招いた結果であり──、ここに至る評価は分かれるところだろう。

実際、後日チームメイトの松本吉弘にこのときの心境を聞くと、

「俺はたぶんできないです。まあでもナシ寄りだけどあってもいいかな、くらい。微妙ですね。
しょーちゃんは呑気に【3マン】切れーって叫んでましたけど」

ということであった。

確かに、ABEMASからすれば肝を冷やす瞬間だっただろう。

しかし私は、この平穏に終わりそうなオーラスが、
まさかここまでの白熱ぶりを見せてくれるとは、思いも寄らなかった。

そして日向がさらにツモってきた牌に、鼓動が高まった。

【4ピン】切りでダブ【南】ホンイツトイトイのハネマン。
瀬戸熊、松ヶ瀬から出たら2着、ツモれば大逆転のトップである。

最初のこのテンパイ形からは、想像もできない最高の手格好だ。

そしてなんとこの時点で、日向の待ちは【2ピン】2枚、【7ピン】1枚の3枚もあった。

瀬戸熊の待ちも3枚、松ヶ瀬の待ちは1枚の勝負である。

めくり合いの逢魔が時を、三者が歯を食いしばりながら歩んで行く。

実際、競技として現実的な期待値を追うことが絶対であるなら、
松本が言うように、やや微妙な決断であったかもしれない。

そんな気もするのだが──、日向の決断に心が躍ったのも確かである。

──日向、ツモっちまえ!

どこか贔屓のチームがあるわけでもないのに、こう思ってしまう。

競技と、エンタメの狭間で、私たちはどうしても、高揚する部分を譲れないでいる。

この熱戦のオーラスは、日向が【3ソウ】を掴んだことにより終焉する。

日向はハネマンの放銃だが、松ヶ瀬のリーチ棒により、
ラス落ちは首の皮1枚免れた。

そしてTEAM雷電瀬戸熊直樹がトップを勝ち取ったのである。

この日は次いで第2試合も雷電の黒沢咲が高打点を連発して悠々のトップになる。
雷電ファンは、渇望していたチームの活躍に、歓喜した一日だったであろう。

そして、この瀬戸熊のトップを“演出”したのは日向だった。
語弊はあるかもしれないが、今日の興奮するゲームの陰の功労者は、日向だと思う。

日向はあと一歩でトップに届くテンパイを果たし、
雷電は次シーズンにつながる奮起を見せる結果になった。
MVPに大きく近づくはずだった沢崎は苦渋を舐め、
松ヶ瀬も最後までラス抜けの気概を絶やさなかった。

日向の気迫があったからこそ、
この試合が最後の最後まで、どう転ぶかわからない最高のドラマを生んでくれたのである。

自身のハネツモは微かな可能性だが、
沢崎を瀬戸熊が捲るのは待ってもいい。
ラス目のマンツモでも捲られない条件下なら、
あのテンパイを外す是非は、ギリギリの評価だったと思う。

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