ただがアンカンされているので、は瀬戸熊からの直撃で2着浮上は見込めるかもしれない。
日向がを切る。
これを西家瀬戸熊が叩いた。
序盤のあの手牌から、を重ねてここまで育て上げていた。
もちろん瀬戸熊もこれをアガれば待望のトップ。
そしてハネマンになるため、日向が打つと最悪の結果で終わるところにもなっていた。
さらにすぐ松ヶ瀬がリーチ。
日向は一発目に無筋のをツモ切り。
もう、押すしかないのである。
そして瀬戸熊にもテンパイ。
3人テンパイだ。
これはもちろん日向の選択が招いた結果であり──、ここに至る評価は分かれるところだろう。
実際、後日チームメイトの松本吉弘にこのときの心境を聞くと、
「俺はたぶんできないです。まあでもナシ寄りだけどあってもいいかな、くらい。微妙ですね。
しょーちゃんは呑気に切れーって叫んでましたけど」
ということであった。
確かに、ABEMASからすれば肝を冷やす瞬間だっただろう。
しかし私は、この平穏に終わりそうなオーラスが、
まさかここまでの白熱ぶりを見せてくれるとは、思いも寄らなかった。
そして日向がさらにツモってきた牌に、鼓動が高まった。
切りでダブホンイツトイトイのハネマン。
瀬戸熊、松ヶ瀬から出たら2着、ツモれば大逆転のトップである。
最初のこのテンパイ形からは、想像もできない最高の手格好だ。
そしてなんとこの時点で、日向の待ちは2枚、1枚の3枚もあった。
瀬戸熊の待ちも3枚、松ヶ瀬の待ちは1枚の勝負である。
めくり合いの逢魔が時を、三者が歯を食いしばりながら歩んで行く。
実際、競技として現実的な期待値を追うことが絶対であるなら、
松本が言うように、やや微妙な決断であったかもしれない。
そんな気もするのだが──、日向の決断に心が躍ったのも確かである。
──日向、ツモっちまえ!
どこか贔屓のチームがあるわけでもないのに、こう思ってしまう。
競技と、エンタメの狭間で、私たちはどうしても、高揚する部分を譲れないでいる。
この熱戦のオーラスは、日向がを掴んだことにより終焉する。
日向はハネマンの放銃だが、松ヶ瀬のリーチ棒により、
ラス落ちは首の皮1枚免れた。
そしてTEAM雷電・瀬戸熊直樹がトップを勝ち取ったのである。
この日は次いで第2試合も雷電の黒沢咲が高打点を連発して悠々のトップになる。
雷電ファンは、渇望していたチームの活躍に、歓喜した一日だったであろう。
そして、この瀬戸熊のトップを“演出”したのは日向だった。
語弊はあるかもしれないが、今日の興奮するゲームの陰の功労者は、日向だと思う。
日向はあと一歩でトップに届くテンパイを果たし、
雷電は次シーズンにつながる奮起を見せる結果になった。
MVPに大きく近づくはずだった沢崎は苦渋を舐め、
松ヶ瀬も最後までラス抜けの気概を絶やさなかった。
日向の気迫があったからこそ、
この試合が最後の最後まで、どう転ぶかわからない最高のドラマを生んでくれたのである。
自身のハネツモは微かな可能性だが、
沢崎を瀬戸熊が捲るのは待ってもいい。
ラス目のマンツモでも捲られない条件下なら、
あのテンパイを外す是非は、ギリギリの評価だったと思う。