松本は、安全に打点を引き上げる現物切りを選んだ。だが、
次巡、近藤が引き。
瞬間、松本は表情を曇らせる。もしもアガリやすさでを切っていれば、ここで5200をアガり、親を蹴れていた。ある程度通りそうだとは考えていたと思われるが、安全策が裏目に。
岡田もを押せていたら、で満貫をツモっていた。
結果は流局。岡田と松本にはアガリルートがあったが、近藤の気迫が2人を退かせた。近藤には、勝たねばならない理由がある。
南2局3本場。
近藤はカンターツを払い、孤立のを残した。ここからピンズとソーズで4メンツを作ったところで、打点はたかが知れている。それよりもドラ受けを重視し、打点を狙いに行った。
狙い通りの引きで、手牌の価値が一気に高まる。
テンパイ自体はをポンした岡田が先だった。しかし近藤も待ちで追い付く。もちろん、リーチ。
一発ツモ。これぞ近藤誠一、大きく打って大きく勝つ男の真骨頂。
https://twitter.com/SEGASAMMY_PNX/status/1516015838632943617
控え室で見守る仲間たちが、喜びを爆発させる。
裏ドラは乗らずとも、ハネ満ツモでライバルを一気に突き放した。次局を無事に消化できれば、勝利はもはや手中と言ってもいい。
南3局1本場。
近藤にピンフテンパイが入った。ダマテンで静かに局を進めるには絶好の手だ。
「リーチ」
・・・!?
牌は横に曲がっていた。ピンフドラ1はリーチというのが現代麻雀のセオリーだと言われている。リーチによる打点上昇の恩恵を受けやすいからだ。だが、南3局の抜けたトップ目、オーラスが自身の親番なら、局消化優先でダマテンにする打ち手がほとんどだろう。
それでも近藤がリーチをかけたのは、待ちでのアガリが期待できると踏んだから。滝沢が国士無双を狙っていそうな捨て牌、そして松本・岡田が早々にを切っていることから、特にの感触が良さそうに見えたと思われる。そしてアガれそうなら、セオリー通りリーチで打点をつり上げる。
ピンフドラ1、ツモって700-1300も、リーチしてツモって裏が乗れば2000-4000。チャンスと見ればどこまでも稼ぎに行く、鬼気迫る麻雀。これが決勝仕様ということか。
2年前のファイナル、フェニックスは最終日を首位で迎えながらも、U-NEXT Piratesの逆転優勝を許した。
最終戦での魚谷侑未と小林剛の激突、そして初戦で石橋伸洋が決めた会心の勝利は今でも語り草となっているが、そのとき石橋にトップラスを決められてしまったのが近藤だった。その屈辱と悔しさは今でも、いや、ファイナルにたどり着いた今だからこそ、彼の胸を締め付けているはずだ。
近藤誠一がんばれ!×3
近藤誠一がんばれ!×3
がんばれがんばれがんばれ!
近藤誠一がんばれ!#近藤誠一さん神推し3歳児 #セガサミーフェニックス箱推し3歳児 pic.twitter.com/FB4ykdkja7— 杉本 史織/RMU16期前期 (@shiorisugimoto2) April 18, 2022
あれから2年。近藤とフェニックスを応援する声は、さらに増えた。そのなかには、この春3歳になったばかりの、小さな大サポーターもいる。
「あの子がもっと大きくなったときに、近藤誠一を応援していて良かったと思ってもらえる自分でありたい」
実況・日吉辰哉の口をついたフレーズ、
「令和に蘇りし新撰組、鬼の近藤」
「誠」の文字を胸に抱き、背負うは不死鳥、仲間やファンの思い。
2年前の借りを返し、シャーレをこの手に収め、喜びを分かち合うために。
近藤誠一は、ファイナルの舞台で鬼と化した。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。