「これは狩りに行く」
白雪のナイフが、歌衣の喉元に突きつけられる。

出アガリにこそならなかったが、白雪のツモアガリ。
これで歌衣をかわしてトップ目に躍り出る。
去年の忘れ物を取り返すまで、あと、少し。
南3局

先制リーチは天宮。
カンのリーチドラ1は、ツモって裏を乗せればまたトップ争いに参加できる。

これを受けた歌衣の手牌は、この状態。
遠くに高い手が見えるものの、先制リーチを打たれたら流石に手が遅すぎる。
「オリか……」
ここは南4局のアガリにかけて、歌衣は安全牌の字牌に手をかける。
これは正しい判断だと思う。流石にここから追い付いてアガリまでは厳しい。無理に手を進めても、点棒を失うことになってしまうケースが多い。

次巡、持ってきた。
「まずい」
……え?
「行きたくなっちゃう」
まてまてまてまてまて茶。
落ち着こう歌衣。確かに手牌はメンゼンホンイツチートイツのイーシャンテンと言えなくもないが、浮いているは共にリーチに通っていない。
流石にここからは……

「まずい! 行きたくなっちゃう!」
ああ、ダメだ。歌衣さんの悪いクセが。
大物手が見えると途端にブレーキがぶっ壊れる悪いクセが……

更に親の天開からもリーチ。
「ああ、無理無理。こんなの行けるわけないよ。通ってないし? 流石にね?」
うんうんうん。そうだよね?
じゃあとりあえずいつまでもに合ってるカーソル一旦外そうか?

「……ああこれは流石に。
切ろう」
流石に歌衣も2人に通っていないは無謀と判断し、
に手をかける。
……押せなくて残念そうに感じたのは僕だけですか?

ここは天開がを掴んでしまい、天宮へ2600点の放銃。
天開は最後まで厳しい展開が続く。これで親番が落ちて着アップがかなり絶望的になってしまった。
勝負は、南4局へ。

アガればトップの白雪が、をポンしてドラの
切り。
この辺りの仕掛けはぬかりない。もちろんラス目の天開や親の天宮、それに歌衣だってリーチを打って出ることはある。
その時に手牌が短いのは心もとないが、白雪は知っている。最速のアガリこそが、最大の防御になると。
そして余剰牌の持ち方も上手い。
タンヤオのブロックはもうできているので、余剰牌は親の天宮の現物と、全体に安全度の高い字牌の
。
このあたりが白雪の仕掛けの精度を支えている。

をチーして
切り。
手牌が全て危険牌なため、ここはを切って
を残したくなるところだが、そうしなかった。
全力でアガリに向かう。文字で書けば簡単なことだが、実際にやるとなるとそう簡単ではない。
これでラス目の天開のリーチに放銃して2着落ち、なんて未来もあるからだ。
そのリスクを背負ってでも――

このポンは逃せない……!
アガればトップのテンパイに、白雪がたどり着いた。
全力のタンヤオ仕掛け。
去年の忘れ物は、もう目の前まで、手の届くところにある。
