山に6枚残っていたが、これがもつれた。
勝又にアガられると苦しくなる本田が、苦しい形ながらタンヤオで仕掛けて前に出る。
しかしテンパイを果たした終盤、勝又のアガリ牌であるを引くと、スッとを抜いてまわった。
対局前の優勝予想アンケートで、1位は佐々木寿人の38.6%であったが、なんと2位は本田の25.3%であった。
本田はこの中で唯一1期生ではないMリーガーであり、実力、人気を共に高いレベルで誇る勝又、高宮を差し置いての優勝予想第2位は、Mリーグのシーズン個人成績第2位がフロックではないことを物語っていた。
切らなかったを組み込んでテンパイを仕返したが、無情にも勝又にをツモられてしまった。
そっと唇を噛む本田。勝負はオーラスとなった。
南4局。高宮は勝ち上がりがほぼ確定。
勝又は他家から狼煙がアガった際の対応が難しいが、流局すれば終了となる。
寿人は1300・2600または満貫出アガリ、本田はハネマンツモ条件である。
勝又がここから、を仕掛けた。
流局すれば勝ちアガリの状況で、比較的安全なを2枚消費することは相当勇気がいる。しかし前述の通り、他家の攻撃があった際にある程度アガれる形を目指しておくことも大事な局面なのだ。
直後、寿人に逆転手のテンパイが入った。
カン待ち、5200点のダマテン。勝又、高宮から出れば文句無しの勝ち上がりだ。
勝又がピンズを多めに持っていそうで心許ないが、溢れるかもしれないを静かに狙った。
最初にピンチが訪れたのは高宮であった。つかんだが、右端でゆらゆらしている。
高宮は静観していれば勝ち上がりだが、もちろん自分がアガっても勝ちが決まる。
また、仕掛けている勝又が万が一アガった時に、次局は自分が2位で寿人、本田のターゲットになってしまうのだ。
しかし高宮は、冷静にを切って危機を回避した。「もうを切る気は無かった」と後に語った高宮の背中は、とても頼もしく思えた。
そしてハネツモ条件の本田は、アガれないタンヤオテンパイで三色の変化をじっと待っていた。
残り5巡…4巡…3巡…
現状勝ち上がり候補の高宮、勝又が、貯めてきた安全牌を祈るように並べる。本田は手変わらない。寿人は待ちに変化していたが、じっとダマテンを続行していた。本田からアガリ牌が出た時に備えたリーチもかけず、ただただハンターのように息を潜めていた。
残り1巡となったところで、一発裏ドラにかけた本田が手変わらないままリーチをかけた。即座に、寿人が牌を横に曲げる。勝又の表情が僅かに歪んだ。
本田のアガリ牌は山に無く、寿人のアガリ牌が1枚だけ残っていた。王牌と合わせて、見えていない牌山16枚のうち、2枚(本田と寿人のツモ牌)にがいれば寿人の勝ち、いなければ勝又の勝ちである。約分すると、寿人が勝つ確率は1/8だ。
勝又だって、潜ってきた修羅場の数が違う。勝又が2015年に史上最年少の鳳凰位に輝いた時だって、もっと苦しい場面はあった。けれど、1/8くらいの確率なら朝飯前で乗り越えてくる男が隣の席に座っていたことが、勝又にとって最大の不運であった。
本田のつかんだに、いつもと変わらない声で寿人がロンをかける。8000点のアガリにより、勝ち上がり者は寿人、高宮の2名となった。
元 日本プロ麻雀協会所属(2004年~2015年)。
会社に勤める傍ら、フリーの麻雀ライターとして数多くの観戦記やコラムを執筆。
Twitter:@ganbare_tetchin