3回戦を終えての結果はこのようになった。新井は今だトータル首位にいるが、浅井が大きなトップを獲得し、ほぼ着順勝負というところまで迫った。菅原もオーラスでの満貫ツモによってプラス域に浮上し、新井まで56.9ポイント差と、現実的な条件を残している。2ラスで大きく出遅れた内田には、非常に厳しい条件が突きつけられることとなった。
・・・ここまでが、序章。
そう書きたくなるほど、最終4回戦の戦いは濃密で、劇的で、感動的だった。
■4回戦・前半「振り子は揺れど、勝者は決まらず」
菅原の特徴とも言えるのが、ときおり見せる「困り顔」だ。対局が佳境を迎えると、彼女は困ったような、悲しそうな顔をする。ただ、それは困っているというより、対局に集中・没頭しきったときにそうなってしまうようだ。最終戦では、開局時からすでにそんな表情をしていた。
東3局1本場、ここまで劣勢だった菅原にチャンスが訪れる。リーチタンヤオピンフ赤、満貫以上の打点が確定した待ちリーチ。
そこに対し、遅れを取りつつタンヤオピンフに三色も見える好形1シャンテンだった新井が生牌のドラをプッシュ。菅原の切り出しは字牌→19牌→中張牌と普通の手組みに見え、字牌が当たる可能性はそれほど高くはなさそう。手牌に価値がある以上、ドラでなければ押す牌ならドラでも押す、ということか。
リスクを負ったのは、もちろんリターンを得るためだ。三色こそ崩れたがタンヤオピンフのテンパイにたどり着いて、当然のリーチ。2人の待ち牌は、共にアガれるが赤で1枚だけ残っていた。
麻雀の原点とも言える、シンプルなめくり合い。親の内田も参戦するなかで、勝ったのは菅原だった。を自力で引き込んでの3000-6000で、一気に新井へと肉薄した。
続く東4局、菅原は新井が第1打に切ったをポン。さらなる加点を狙う。
優勝のために打点が欲しい内田がカンまちのテンパイからを暗槓すると、新ドラがとなり、菅原の手が一気に大物手に化けた。
道中でドラを引き入れていた菅原は、ダブドラ4のハネ満をテンパイ。
新井が第1打にを切ったのは、ある程度手がまとまっており、もっとも鳴かれにくいタイミングで処理をしようとしたからだ。切った後のことはやや想定外だったかもしれないが、このリーチまではイメージ通りだろう。
だが、ここも制したのは菅原。新井としては2局連続で自身のアガリ牌をツモアガられた格好に。そしてこの手はダブドラ4の6000オール、これで菅原が新井を逆転、トータル首位へと浮上する。
一方の新井も、辛くもテンパイを入れてつないだ南2局1本場の親番でリーチ一発ツモ赤の4000は4100オールをアガり、菅原を再逆転。新井と菅原、二人の間で運命の振り子が揺れる。
この連荘は、浅井が生んだものだった。浅井は優勝するためには菅原を逆転しなければならないが、すでに親番が落ちて残りは最短3局、新井の親が終われば残された時間がさらに少なくなる。打点必須の新井がリーチに来ない以上、ノーテンの可能性も考えて、新井が欲しそうな牌をあえて切ったのだ。
事実、苦しんでいた新井としては、このパスを受け取らない手はなかった。これによって生まれた連荘で新井が逆転したが、可能性をつなごうとする浅井のファインプレーも光った場面だった。
南2局2本場。新井はタンヤオドラ3の待ちテンパイを入れていたところに、sを引いてのシャンポン待ちに切り替えた。確かにツモればタンヤオ三暗刻ドラ3のハネ満と破壊力は1.5倍になるが、打点アップの可能性と引き換えに待ちを大幅に悪くしたように見える。
ただ、菅原の手にはマンズが455とあった。リャンメン2つに縦受けもある、いわゆる完全1シャンテンだが、テンパイ時にはが出ていく可能性が高い。まさか、新井はこの形まで読み切っていたのか。
新井が菅原から12000を直撃できれば、もはやそれは決定打にもなり得る一撃だった。だが、菅原はを引いて放銃回避。
新井としては、浅井からツモ切られたを逃し、
逆に、菅原へ3900は4500を打ち込む結果となった。この時点で言えるのは、菅原が再び新井を逆転した、ということだけだが、このシーンに関しては、おそらくどこかで本人から語られることがあると思う。
次局、新井は1000点のアガリで局を進めた。これにより、オーラスの点数状況はこのようになった。
・南3局終了時スコア/トータルスコア
菅原 49700 +72.9
新井 31700 +71.8
浅井 19800 +18.9
内田 -1200 ▲163.6
菅原は新井とトップ2着の場合、17000点以上の差をつけなければならない。
新井は1000点を横から出アガリする以外のアガリであれば菅原を逆転。
菅原は親番につき、ノーテンでの流局は新井がノーテンでない限り逆転されるという、リードしながら追い込まれる状況に立たされた。
浅井は菅原を逆転するのが条件だが、必要なのは倍満直撃か三倍満ツモと非常に厳しい。
内田は四倍役満(地和四暗刻字一色大三元など)をアガっても届かず、条件は完全に潰えた。
■4回戦オーラス「積まれた牌山と強者の選択が紡いだドラマ」
南4局は菅原と新井のテンパイで流局。本場がついたことで、新井はアガりさえすれば優勝できるようになった。
1本場、先にテンパイしたのは新井。を鳴いての待ち。
菅原は最終盤になってもテンパイしない。ノーテンも負け、新井に打っても負けという状況で、菅原はを引き、を切った。は直前に新井がツモ切りしていて現物。安全度と、もしかしたらテンパイしやすさを含めてポン材を残す考えもあったのかもしれない。