BEAST Japanextドラフト会議指名オーディション ファイナル。
優勝者には、新規参入チーム「BEAST Japanext」の創設メンバーとして、Mリーグを戦う権利が与えられる。
2023年6月17日、4人の麻雀プロが自分の人生を変えるべく、その卓についた。文字通り人生を懸け、麻雀プロとしての己を構成する全てを振り絞って戦った選手たちの姿を、我々の胸を熱くさせてくれた闘牌を、どうかいつまでも覚えておいてほしい。
勝者は1人。けれども4人全員が、ファイナルの主役だった。
■1回戦「静かな初戦、戦いのなかで生まれた火種」
全4回戦の初戦を制したのは、菅原千瑛。
アガリは2回。東1局には積極的な仕掛けから先制テンパイを入れ、内田のテンパイ打牌を捉えてトイトイの5200を出アガリ。
南1局にも先手を取ることができ、リーチピンフドラの3900を浅井から出アガリした。1回戦は最少の全8局で終わったが、内6回が放銃決着と激しい打ち合いに。そのなかで唯一放銃がなかった菅原がトップを取った形となった。
放銃が多かったのは、各者が攻めの姿勢を貫いていたことが大きい。東3局、ポンチーチーと3フーロしてを手出しした内田に対し、新井は愚形残りの1シャンテンからまっすぐを押した。
の後付けテンパイを入れ、さきにテンパイしていた内田から3900を出アガリ。リスクを負いながら前に出る選択が功を奏し、加点に成功する。
新井は、菅原と5800点差の3番手で迎えたオーラスで、待ちのピンフテンパイを取らず、タンヤオをつけての打点アップを目指した。1000点をアガれば2番手浮上で終われるが、トップと2位で順位点に4万点の差があるMリーグルールにおいては、優勝のためにも狙えるトップは狙いたい。最終的には待ちのリーチをかけて流局に終わったが、その意志を強く感じさせたテンパイ取らずだった。
初戦の結果がこちら。満貫以上のアガリは1回だけと比較的静かに終わった一戦だったが、中身を見れば各者の手が、そしてお互いの意地と意志がバチバチとぶつかり合う一戦だった。そのなかで生まれた火種が2回戦で着火し、戦いの激しさは加速度的に増していくことになる。
■2回戦「高打点飛び交う卓上で、ゴキゲンな男は己の道を行く」
1回戦と打って変わって、2回戦は高打点が続出した。まずは東1局3本場、内田のリーチに対して形を保っていた菅原が追いついてリーチを宣言するも、打ち出されたにロンの声。
内田の手はリーチイーペーコードラドラ赤、12000は12900。初戦ラスの内田が初戦トップの菅原から大物手を直撃し、トップラスの構図を作る。
次局には新井が菅原から8000は9200を直撃。この時点で、初戦の菅原のリードは消し飛んだ。
そしてここから「ゴキゲンな一発屋」新井が牙をむく。
東2局は先制リーチに対して内田・浅井の追っかけリーチを受けるが、ハイテイで高目のドラをツモってハネ満。このアガリで早くも内田をかわすと、
圧巻だったのが東3局の親番。リャンペーコー赤で満貫が確定している手で、何とリーチをかけたのだ。待ちのはドラスジで出やすい牌ではないこと、親リーチの効力など理由はいろいろあるだろうが、一番大きいのは決まったときの打点。ツモればハネ満からで一気に主導権を握れる。トップ取りの勝負だからこそ行けるときに畳みかけるという、新井の勝負感覚がこのリーチを打たせたのではないだろうか。
この選択が最高の結果につながる。山に残り1枚だったをツモると、裏ドラが2枚乗って8000オール。新井が圧倒的に優位な立場に立った。
さらにリードを広げて迎えたオーラス。新井は3軒リーチに囲まれ、一度は完全安全牌のを切ってしのぐも、次巡ではツモってきたをそのまま切った。
これが内田への放銃となり、2600。新井の立場として、この局で絶対にアガられたくないのは親の菅原である。持ち点に余裕がある状況を踏まえ、親の現物で子がアガるならそれでよし、とにかく親にだけはアガらせないという選択を取った。
新井は今回ファイナルで戦う4選手のなかでも、圧倒的にプロキャリアが長い。A1リーグにも長く在籍し、自団体の頂点「最高位」に輝いたこともあり、タイトル戦の経験も豊富だ。強気の倍満ツモも差し込み気味のクレバーな放銃も、彼が麻雀プロ人生の中で培ってきたあらゆるものを駆使しながら戦っていることの証と言っていいのかもしれない。
2回戦の結果がこちら。前半戦を終え、新井がやや抜けた首位に立った。この2回戦は菅原や浅井も見事なハネ満をアガリ、南場では新井が親番で高打点のリーチを何度も繰り出すなど、本当は書きたいシーンが他にもあったが、割愛させていただいている。可能であればぜひ、ABEMAプレミアムでこのスリリングな一戦を見返していただきたい。
■3回戦「雀王の逆襲、戦いは究極の条件戦へ」
新井に豊富な経験があるのならば、「今」強者として名を馳せているのが浅井だ。浅井は日本プロ麻雀協会の頂点「雀王」であり、EX風林火山の「IKUSA」でも200人超のなかから上位7名に残って準決勝進出、本オーディションでも粘り強さを見せて決勝に残った。
前半2戦は難しい展開が続いたが、3回戦では中打点のアガリを積み重ねていくと、東4局でリーチツモピンフ一気通貫ドラ裏、3000-6000は3100-6100のアガリで大量加点に成功。
南1局ではドラ暗刻のチャンス手をしっかりとアガリに結びつけ、内田から12000を仕留める。大きなトップを獲得して、優勝への可能性をつないだ。
浅井が突き抜けたなかで、優勝のみに価値がある条件戦ならではの駆け引きが見られる一幕があった。
南2局。親番の菅原はドラ3のチャンス手がなかなか進まず、テンパイしたのは自身の最終手番。残りの山は2牌で自身のツモ番はないが、菅原はツモ番なしのリーチをかけた。
理由は、現状のトータル首位である新井の加点を阻止することだった。新井がテンパイしていたとして、放銃の可能性のある牌をつかんだときにオリに回らせることができれば、1000点の加点を1500点の失点に追い込むことができる。もちろんアガれるのが一番だが、その見込みがない以上、少しでも新井を曲げさせたかったのだ。そして新井は、菅原の注文通り通っていないをつかみ、テンパイを崩してオリた。
まだ何も懸かっていない状況であれば、おそらくこのリーチはかけてないと思う。差し引き2500点、たったの2.5ポイントが後で生きてくるかもしれない。すでに条件戦が本格化している、そんなことを伝えてくれたようなワンシーンだった。