熱論!Mリーグ【Mon】
もしもウルトラマン
が負けたら…
たろうとヒサトが
「惑星M」を支配する時
文・花崎圭司【月曜担当ライター】2018年11月19日
物事が“道理”にそって進めば安心する。でも時々起きる“不条理”な出来事が起きるとワクワクする。「理論通り」行くことを望む自分もいるし「不条理が起きる」ことを待つ自分もいる。
「願望は二律背反 押し付けの理性なんて信じない」
欅坂46の「アンビバレント」の歌詞の抜粋である。
2018年1番良い曲でありMVだと僕は思うのです。
――というわけでいきなり脱線から始まる脱線王ハナサキのMリーグ観戦記です。
麻雀は「不完全情報ゲーム」です。「不完全情報」というのは、情報がすべて見えていないということ。牌山、そして相手の手牌と「自分から見えない情報」が麻雀にはあります。他には「UNO」とか「ポーカー」とかが「不完全情報ゲーム」です。
逆に「完全情報ゲーム」というのはその名の通り、全部の情報が見えているゲームのこと。「将棋」「囲碁」「チェス」「オセロ」などが完全情報ゲームになります。
そんな麻雀のような「不完全情報ゲーム」を「理論」によって、どの選択が勝つ確率が高いのかつきつめる。これはデジタルという言葉を出さなくとも、昔からやっていることです。
理論であれば3面待ちがカンチャン待ちに負けるはずはないのですが、なぜか今日はカンチャン待ちの方ばかりが勝つ、という時があります。それが「不条理」です。不完全情報ゲームはこの不条理がえげつないところで起きたりします。
そんな不条理なシーンを見ると、私たちは興奮します。「そのカンチャン待ちの五萬を赤で持ってくるのかよ」みたいなやつです。
理論で組み立てた城を、不条理という槌が破壊したとき、人間は快感が走るのです。
ではその逆は? 理論が不条理に勝つとき、人はどう感じるのか? 理論という「ウルトラマン」が、不条理という「バルタン星人」に勝つのは当然なので、そこにカタルシスは生まれません。カタルシスが生まれるのは、ウルトラマンが負けそうになったとき、つまりピンチになったときです。「理論」というウルトラマンが負けそうになるとドキドキして、応援して、そして最後の最後で逆転勝ちしたとき、その反動で快感を生まれるのです。
ところで、こんなことを思った事はありませんか? 「もしバルタン星人がこのままウルトラマンに勝ったらどうなるんだろう?」
「理論が勝つ快感」と「不条理が勝つ快感」、僕たちはこの「二律背反」を抱えているのです。
Mリーグ第8週第29節第1戦。
そのメンバーは
南家・朝倉康心(U-NEXTパイレーツ)
北家・佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
この4名を理論→不条理の順に並べると、
(理論→)朝倉→亜樹→佐々木→鈴木(→不条理)
となるだろうか。
ヒサト(佐々木寿人)プロとたろう(鈴木たろう)プロの順番が逆かもしれないが、たろうプロよりヒサトプロの方が攻撃的でスピード感があるので、まだ納得度が高いのかなということでこの順番にしたが、不条理度はそれほど変わりないかなと思う。
そしてこの不条理二人は、Mリーグ序盤は個人成績下位でもがいていた。しかし、ヒサトは国士無双をアガってから一気に上昇ムードになっている。
たろうも先週2連勝して状態がいい。
そんな状況で戦いの火ぶたが切られた第29節第1戦。
「理論」組の亜樹が2連続アガりを決め、不条理という悪は許さない。「月に変わってお仕置きよ!」とトップに立つ。
そんな状況で東3局。ドラは
中盤から後半にさしかかった11巡目。亜樹から1枚切れのが切られる。その時のたろうの手牌
良形にするためドラ含みターツのはすでに切っている。
ここでポンしてドラドラのテンパイをとるか。それとも鳴かずにを頭に、またいざとなれば完全安牌として使うか。
「理論船団」パイレーツの3人だったらどういう選択をするのだろうか?
(私だったらを切っていないのでこの手牌にはなっていない……)
たろうの選択は同巡、亜樹から切られたをスルー。それがたろうの異名でもある“ゼウスの選択”だ。
この手牌は、「アガること」が最高形ではない。「リーチ・ツモ・三色・赤赤」が最高形なのだ。
そう、「最高形への選択」。これこそ“ゼウスの選択”だ。
12巡目、たろうはをツモり即リー。
そして山に残っていた最後のを掘り出す。
その後、チートイツのタンキ待ちをリーチし一発でツモる。
同卓者にとっては「不条理」なことが起こる。わかりやすい言葉で言えば「ズルい」と思ってしまう。でもこれも麻雀なのだ。
「理論」という正義の味方、ウルトラマン朝倉が南1局に満貫をツモり、なんとかバルタン星人をやっつけようとするが、カラータイマーの音を響かせながら局は流れていく。
そして南4局。ドラは。親番はヒサトだ。
たろうは2着の朝倉と21200点差。安全圏といっていいだろう。
一方ラス目のヒサトとは24200点差。もちろん安全圏ではあるのだが、直撃をくらって親の連荘が続くのは嫌な感じである。
その嫌な感じの状況が9巡目に生まれる。ヒサトからのリーチだ。
満貫確定、しかもの残り3枚は全部山にある。
しかしここでたろうもテンパイを入れる。
渾身のピンフ!
しかし次巡持ってきたのがドラまたぎの
“ドラ”は、“ドラゴン”の略である。その“ドラゴン”をまたぐ。
もしヒサトの手にドラゴンが潜んでいたら、そのしっぽを踏み、火炎で火だるまになる九。でもここは自分でアガることが大切!
2万点以上のアドバンテージがありながら、たろうは逃げず、
ドラゴンをまたいだ。東3局のを鳴かない人は多いと思うが、を切る人は少ないのではないだろうか。
結果どうなったか? ドラゴンのしっぽは踏まずにすみ、次巡ヒサトはよりによってをツモり、たろうに放銃。
たろうは3連勝となる。
チームの監督としては、エースと呼ばれる「大きなプラス」を持つメンバーがいることも大切だが、「マイナスをもつメンバー」をいなくする、もしくはマイナスを少なくすることも大切だ。先週、そして月曜日のたろうは監督の期待にこたえ、「お荷物」から「ミラクルボーイ」となった。
第2戦はヒサトがオーラスでリーチ一発ツモ赤赤と
「不条理満載」のアガりでたろうは逆転負けの2着となった。
どちらも不条理に見える勝利。でもこれがかっこいいのだ。
不条理という言葉が心地よくないのなら、第1戦、女神が微笑んだのはたろうであり、第2戦はヒサトだった。女神なら“ゼウス”であるたろうにずっと微笑みなさいよというツッコミがありそうだが、「女神の選択」は気まぐれなのである。
今回は「不条理」が勝ち、それはゾクゾクワクワクするものだった。
だが「理論」組も負けてばかりではない。ウルトラマンはピンチになっても最後には勝つのだ。そして理論には理論の“美しさ”がある。
いや、その美しさをまたバルタン星人は破壊するのか? 次戦のたろうが楽しみである。
おまけ。
鈴木たろうプロは『さぇぴいのトップ目とったんで』という番組でアイドルグループ、NMB48の村瀬紗英に麻雀を教えたり、対局の解説をしている。いわば“先生”だ。
さぇぴいに「先生めっちゃ弱いやんか」とツッコまれずにすんでよかった。
不条理だけで日本プロ麻雀協会の最高峰タイトル「雀王」を4回も獲得はできないのです。
おまけのおまけ。
解説の白鳥翔プロが、滝沢プロがあがった時に「高速拍手が聞こえてきます。これは勝又プロだと思います」というコメントを聞いたとき、ちょっとラッコが脳裏に浮かんでしまいました。
一方、ヒサトプロは最後かっこいいアガりをしてトップをとったのに、
控え室に仲間がいないのはちょっとさみしい……。
花崎圭司(はなさきけいじ)
放送作家・小説家・シナリオライター。映画化になった二階堂亜樹の半生を描いた漫画「aki」(竹書房刊)の脚本を担当。
(C)AbemaTV
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