熱論!Mリーグ【Fri】
最年少Mリーガー
松本吉弘への
ジェラシーが止まらない件
文・阿部柊太朗【金曜担当ライター】2018年11月9日
ルサンチマンという言葉がある。
ドイツの哲学者、ニーチェが定義した言葉で『弱者による強者への嫉妬心』といったような意味合いを持つ。
松本吉弘という男がいる。
26歳という若さでRTDリーグ出場、Mリーグ出場、GIタイトル獲得、所属団体ではB1リーグと、麻雀プロが晩年までに果たしたいと考えるであろう目標の大部分を達成している。
阿部柊太朗という男がいる。
23歳という若さではあるが、RTDリーグ、Mリーグはおろか、タイトル戦の決勝にさえ残ったことがない。所属団体ではCリーガーである。
嫉妬心が無いといえばウソになる。
いや、むしろ嫉妬心しかない。
なんとか松本にケチをつけてやろう。
ケツの穴の小さい男だと思われても構わない。
輝く若手が妬ましいのだ。
東1局、マンズの多いこの手牌。
ホンイツも見えるが、南家の松本の選択は打。
オタ風のを残して先に役牌から切り出していく。
「えー、わたくし、タンヤオでリーチに行くか、チンイツにいってやろうと考えております」
という所信表明だろう。
続々と押し寄せるマンズ。
「えー、わたくし、チンイツ一本でいかせていただきます」
打。
「えー、わたくし、テンパイいたしました。タンヤオチンイツで跳満でございます。」
リーチの前原から討ち取り幸先よく12,000のアガリを決める。
まったく、開局からツイている男だ。
悔しいが、松本は雀力の高さゆえに、基本的な牌姿で考えることはない。
松本の手が止まる時、それは我々も一緒になって考えるべき、問題提起の手である。
東2局、松本の手が止まった。
アガリに必要な5ブロックは足りているので、孤立牌の安全度の比較だろう。
は魚谷の現物。
対しては前原の現物であり、かつのワンチャンスであるため他2人に対しても比較的打ちやすい牌。
基本は切りとすることが多そうだが、ここで止まるということは、それだけ魚谷の手を警戒しているということだろう。
考えながらも打としたが、この時の魚谷の手牌がこちら。
勝負手の両面×2のイーシャンテン。
考えるべき場面のピントが合っている。
本当に26歳なのだろうか。
東2局1本場、配牌を取るやいなや、ものすごい速度で打とする。
リニアくらい速かった。
松本ならば、東京―大阪間も20分で移動してしまうかもしれない。
「を重ねて5,800~12,000点の仕掛けをするか、タンヤオという方向でよろしくお願いします。」
という思考が一瞬でまとまっているのだろう。
手が進んで、両面×2のイーシャンテン。
1枚切れのと2枚切れのの選択。
選択というほどの話でもないが、
松本は0秒でを切っていた。
凡人は「か。えーっと、は2枚切れだな。
は1枚切れだから、の方が安全度は高いな。」
という思考のルートをたどるので2秒くらいかかるが
松本は「なら持ち替える」
という確定情報で思考の最短ルートを辿っているので、持ってきたときにはもう切れている。
よりも安全度の高い牌も有効牌としてカウントしているのかもしれない。
を引いて平和ドラドラのテンパイ。
0秒でを切ってダマテンに構える。
ピンズが場に安く、は全員からすぐにでも切られそうな牌。
トップ目から5,800を手堅く拾いに行く選択。
結果はダマテンにしたことで、周りに自由に打たれてかわされてしまう。
ざまぁないぜ!と思う一方で
「摸打は早いが選択は丁寧」
という、配信として100点の打ちまわしを魅せられてしまった。
東4局、トップ目で迎えたこの手牌で手が止まる。
松本の手が止まるということは…なるほどこれは難しい。何を切るべきか。
は安全牌なので切らない。
を切ると愚形と心中することになりそうなので、ここも切りたくない。
は123で役ありのテンパイとして、かわし手に移行できる。
と、いうことで松本の選択は打。
トップ目ということもあり、ドラ含みのペンチャンを落として、打点よりもアガリへのルートを重視した構え。
三元牌が全て場に見えているのでドラのを切り出してもポンされる可能性も低そうだ。
この手組がパーペキにハマる。
残したが両面となり、あの手牌がたった4巡で三色同順含みの充分形2シャンテンに成長。
順風満帆な松本のプロ生活を示唆しているかのようだ。
そして、亜樹のリーチをかわしてアガリ切って局消化。
トップ目としての役割をしっかりとこなしていく。
オーラス、アガリトップの松本だが、ここは打としてテンパイを外す。
この巡目なら、この選択が最も柔軟でトップに近いように思う。
ツモからの平和変化、
上家からのチーだけではなく、
こうした裏目の引きでも役ありのテンパイを組める上に、
魚谷か亜樹からリーチがかかった時に、ダマでも押し引きの選択ができるからだ。
この選択の結果、いくつかのアガリ逃しはしたものの、自身がトップになるコースの一つである”亜樹のアガリ”という条件をクリアして、トップを守り切った。
試合後、インタビューを受ける松本の額にはキラリと汗が輝いていた。
「本物のアスリートみたいだな…」
僕のルサンチマンは、今後もますます増大の一途をたどることになりそうだ。
<了>
阿部柊太朗
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。オンライン麻雀「天鳳」の牌譜機能を駆使した超緻密な観戦記が話題に。ブレイク間近の若手プロ雀士。
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