「満貫2回ツモ条件ね……」
時を同じくして、白雪も3着に落ちていた。
しかし、あくまで見ているのはトップ。ヘラクレスよりも上に行くことが、アキレスにとってどれだけ大きいかを白雪は分かっている。
そうして迎えた南3局。白雪の手には123三色が見える手が入っていた。
普段なら、を仕掛けて2000点か3900でも良い手。しかし。
白雪は鳴かない。
ここで仮に2000点をアガって、一番喜ぶのはトップ目の松本だ。
この手は、なんとしても8000点以上に仕上げる。白雪の固い覚悟だった。
三色とドラが確定する。鳴かない。
動いたら、打点が足りないから。
2枚目の。鳴かない。ここで鳴いたら我慢した意味が無い。
粘りに粘り込んだ先で……ようやくを引き入れた。
しかしそれは、松本のリーチと同巡だった。
静かに、白雪が状況を見極める。出ていくは松本に通りそうだ。
あとは、リーチするか否か。は松本の現物ではないが、スジでかなり通る牌。
もしを誰かが持っているならば。ダマにすれば高確率で出る。
だから、ダマに構えた。
冷静に、残酷に。
かつての盟友の心を抉り取る冷酷な8000。
勝負の世界だ。遠慮も、手抜きもしない。
それは、かつて同じ時を分かちあい、笑い合った相手でも同じ。
「……悪いな」
耳もとで小さく呟いたそれは、せめてもの罪滅ぼしか。
「ふう……」
そうして、白雪が振り向いた先は――チーム首位のヘラクレス監督、松本。
……条件はできた。
あとは松本を捉えるだけ。
オーラスだ。
余りにも早いテンパイは、白雪。
しかしこれでは条件に足りない。高目のタンヤオ牌であってもリーチタンヤオツモの1000、2000ではトップには至らない。
ダマに構えた。ピンフがつくか、三色がつくか。
そうして初めて白雪の悲願は達成される。
ツモ。アガリの牌だ。
目さえくれなかった。覚悟のツモ切り。
白雪の目には、トップしか見えていない。
引き……これは待ちがになり……ピンフがつく手変わり。
リーチタンヤオピンフツモは……逆転だ。
当然のリーチ。トップを持ち帰るため、ここまで全てをやりきってみせた。
「条件は作った……ここまで繋いできたんだ」
「ウチのチームの最終局……気持ちよく終わらせてもらうぞ……!」
ツモる手に力が入る。
全ては優勝のため。白雪が、手を伸ばす――!
実はこの時、松本にもテンパイが入っていた。
のピンフ高目三色赤赤の12000テンパイ。
リーチ棒を出しての8000放銃は絶対にできないためダマプッシュを続けていたが、白雪の当たり牌……で手が止まる。