その1牌を止めるか、打つか
堀慎吾、勝利をもぎ取る
精密な押し引き
文・東川亮【金曜担当ライター】2023年11月24日
大和証券Mリーグは、今や100万視聴は当たり前、試合によってはレギュラーシーズンの前半戦でも200万視聴に届くという人気コンテンツになっている。
見る人の理解度もそれぞれで、何を目的に見るかは人によって大きく異なるし、視聴者の数だけ見方があっていい。
もちろん、なかにはトッププロの妙手を見たいという上級者もいるだろう。そういう層の支持を集める一人が、KADOKAWAサクラナイツ・堀慎吾。際どい選択でこともなげに正解を選び続けるこの男の麻雀が、晩秋の夜に冴え渡る。
第1試合
東家:瑞原明奈(U-NEXT Pirates)
南家:日向藍子(渋谷ABEMAS)
西家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
北家:瀬戸熊直樹(TEAM RAIDEN / 雷電)
試合は序盤から大きく動く。
東2局、親の日向が瀬戸熊・堀のリーチに押し切って瀬戸熊からタンヤオ三色ドラドラ、12000を出アガリ。
次局はドラ暗刻の瀬戸熊が待ち頃の単騎でリーチをかけ、瑞原から打ち取って8000は8300。点数が激しく行き来する展開となる。
迎えた東4局、堀がをポン。手には2枚1枚と、最高形で大三元を夢見たくなる形だが、瀬戸熊が既にと1枚ずつ切っていて、さすがに遠い。
・・・おや?
が重なった。こうなれば、すでにが1枚見えていることが鳴きやすさにつながるかもしれない。終盤なら警戒されて出ないかもしれないが、中盤までならあるいは。
そしてをチー。マンズを払えば高目大三元の1シャンテン。
しかし、堀はを切った。局は中盤、大三元に必要なは全部場に1枚切れで、高打点のロマンこそあれ、アガりに行くには心許ない。そして接戦の状況下では、満貫でも十分に価値がある。堀は夢のある最高打点より、より確実性の高い満貫に照準を合わせた。
すぐにを引いて待ちテンパイ。トイツ落としでテンパイには見えるだろうが、それにしたってこの待ちはなかなかに想定しにくい。
ドラ暗刻の瑞原は、さすがに3段目とは言えこのを止めるわけにはいかなかった。
小三元赤、8000のアガリで堀が日向の後ろにピッタリとつけ、試合は南場へと進む。
南3局。
早々に十分形の1シャンテンになっていた日向が、を暗槓。
数巡後、カンを引き入れて待ちのリャンメンリーチをかけた。アガればリーチ赤、70符2翻の4500点からで堀を逆転、トップ目でオーラスを迎えられる。
直後、カン待ちの役なしテンパイを入れていた堀が、を引き入れて少考に入った。
一見、を切れば123のピンフ三色に見えるが、高目は日向にカンされていて山にはもうない。ただ、それでも役ありテンパイの価値を重く見て切りとする手はあるし、待ちでリーチをかける手もある。どちらも勝負の一打だ。
しかし、堀の選択は日向の切っているドラのスジ、切りのダマテン。ツモればアガれるが、役がないので出アガリはできない。ただ、リーチをしないことには大きなメリットがある。
さらなる選択を行えることだ。テンパイを維持していた堀の元に訪れる。これが山に残った日向の待ちの、最後の1枚だった。
堀は打たない。この1牌を止めるために、リーチをかけなかったのだ。自身の手や場の状況、放銃リスク、放銃時の失点、そして巡目。さまざまな条件を加味して、堀は最善手を選び続ける。止めたのがロン牌だったのは偶然かもしれないが、この絶妙なバランス感覚が、堀が強者として高く評価されるゆえんだ。
この局は日向の1人テンパイで流局。堀にとっては考え得るなかでもっともマシな結果に終わり、オーラスを迎える。
そして堀の鋭さは、最終局面でもしっかりと発揮された。親番の瀬戸熊がポンからとリャンメンターツを手出ししてきているのを見て、出来メンツのを抜き打つ。日向と堀の2人がアガリトップという状況、自らの手でケリをつけたいのはやまやまだが、形がよくない。一か八かのリーチという選択をしない以上、ここはアガリに向かう瀬戸熊に対して一度は譲る格好になった。
瀬戸熊はをポンしてテンパイ、を切って待ちに。