苦渋の決断…萩原聖人はMリーグの星になれるのか【熱論!Mリーグ】

熱論!Mリーグ【Tue】

苦渋の決断…

萩原聖人はMリーグの

星になれるのか

文・ZERO【火曜担当ライター】2018年10月30日

 

20年以上前の話。 スマホなどはなく、娯楽は限られている時代。 私も麻雀以外の趣味は少なく、近くのビデオ屋にいってムフフなビデオを借りることくらいしか楽しみがなかった。しかしムフフオンリーでは気が引けるので、普通のドラマや映画などのビデオも借りていたのだ。いわゆる高等戦術「ブラフ」。ムフフはあくあまでもついでの構え。 とはいえ勿体ないので借りたビデオは全部みた。だからその時代のドラマや映画はほぼ網羅していると思う(笑) ついでで借りたドラマの中でも感動したのが、今回の注目する萩原聖人プロが主演を務める「若者のすべて」である。 天下のキムタクとダブル主演であり、若さゆえの情熱や衝突を描いたアツいドラマだった。ミスチルが歌う挿入歌「星になれたら」は今でも大好きな一曲だ。

「まぁ弱いな…と。勝負弱い。でも気持ちだけは折れないように前を向いて戦うしかない。言い訳はしない。」

インタビューで答える萩原。 これまでの個人成績は-138.1で参加プレイヤーの中で最下位。 俳優同様「結果が全て」の世界であると、誰よりも理解している萩原自身が一番悔しいだろう。 本日迎えた二回戦、萩原は結果で魅せることができるだろうか。 東一局、萩原はいきなり猛烈チャンス手からスタートする。 ダブトイツでドラメンツ内蔵。すでにチャンタ・三色のイーシャンテンだ。萩原はから切りだした。すぐを持ってくるが、3巡目ならドラ1のリーチよりも、このイーシャンテンの方が打点的にも魅力があるとも言える。 すぐに を持ってきてテンパイ。萩原はこれをダマに構えた。 私はこの選択を疑問に思う。 1枚見えているはひょっこり切られる牌だし、出て12000ツモって6000オール、と打点も十分で、逆にアガリ逃しは痛恨だ。ダマにするメリットもわかるし、ダマにしたい気持ちもわかる。 しかし、デメリットもある。一番大きいのは他家に真っすぐ打たれることだ。今リーチを打てば、他家はかなりオリる公算が高い。下家と対面は平凡な河だし、何より自分の河がとても怪しい。初打から始まり、役牌を切り飛ばしていって、が横に曲がる…のである。開局の親にこんな捨て牌をされたら、字牌や筋も切りづらくなるだろう。この巡目なら相手を下ろし、ツモ抽選を最後まで受けることにより、アガリ確率は大きく落ちることはないのだ。 またトップの価値が高い東南戦において、東一局の12000は、決まり手にならない。これまでの数々の逆転劇をみればわかるハズだ。このモンスター配牌だからこそ、最大限まで打点を追うことが利益の最大化になる…と私は考える。 まとめると ひょっこり出るはずのを止めさせてしまうデメリット<以外の他の牌を切らせずまっすぐ打たせないメリット&決まり手となる打点上昇 ということだ。 これがもう4巡ぐらい遅かったらダマ寄りになると思う。 実際周りに伸び伸びと打たれ、多井はチートイのイーシャンテンになり、茅森も ここまで育て、萩原の切った赤をポンしてマンガンテンパイ。もしリーチをしていたら、前巡に切っている筋のですら切りづらく、を切っていたように思う。そしたらこのテンパイも入れられなかっただろう。 結果的にテンパイの入った高宮からがこぼれて12000のアガリ。 ただダマに構えたことで全員にアガリまでかなり詰め寄られている。他家に伸び伸び打たれるデメリットが大きいのがわかるだろう。 東2局2本場。 まずは多井の手牌。 このカンのテンパイを取らずに打。供託があるのでリーチにいってもいいが、下家の茅森が国士なのかピンズなのかハッキリしないし、上家の高宮も下の三色が匂う河なので様子をみたのだろう。を引いてのタンヤオ変化もある。 同巡、萩原が このテンパイ。ドラのを切ってダマ。 が1枚見えている、国士っぽい人がいる、トップ目…ということでコチラも様子見の選択か。鳴かれなったらツモ切りリーチもある。仮にが鳴かれるとしたら平凡な捨て牌の多井の可能性が高く、が多井の現物という事でこの選択はアリだと思った。 すると同巡に親の高宮が 同じ待ちであるでリーチ。それを受けた多井が難しかった。 テンパイ。ただピンフのみで、浮いているはいかにも厳しい牌だ。 少考した多井はを切ってまわった。親相手というのも大きいだろう。 萩原もツモ切りリーチで応戦。アツいめくり合いになると思ったが…! アガったのは、まわった多井。トップ目とラス目のリーチを蹴って500・1000のアガリ。 供託を含め、とても大きいアガリになった。 2人はこの表情。高宮さん怖いんですけど(笑) 東3局。その高宮。 ここでドラの切り。ラス目としてはを切ってドラくっつきと三暗刻狙いで進めるべきだと感じた。 対して素晴らしい打点意識とバランスを見たのが南入りして親を迎えた萩原だ。 この手牌からさほど考えずにを切る。イーシャンテンからリャンシャンテン戻しになる格好だ。 ソウズの4連続形()はリャンメン変化だけではなく、とのシャンポン待ちにするためにも必要な強い部分。そしては大事な打点(三色)の種。これらの可能性を断ってまでリーチのみのイーシャンテンにこだわる必要はない。ドラが0枚ならが正着だと思う。2巡目ならなおさらだろう。 をツモって打。もうアタマはできたので4連形を残してもリーチのみの受け入れが増えるだけだ。ではなくを切ったのはを引いてペン待ちになった時の河の強さを優先したのか。 打点意識の高さを感じていたが、すぐに多井から出た ポンした。これにはびっくりした。 小林でも園田でもなく、萩原が1鳴きしたのだ。

萩原は、学生時代、教師たちと敵対関係にあったという。敵対関係と言っても、いわゆる「不良」とは違い、暴力や恐喝をするわけではない。言われるがまま従わないことで自分のアイデンティティを確立していたのだろうと推測する。 「若者のすべて」で共演した木村拓哉にも突っかかったと噂になっている。 自分のポリシーを曲げるのが嫌いで、それは相手が天下の木村拓哉だろうとなんだろう関係ない。麻雀も同じで、半年前にプロになるまでは、萩原によるプロ批判も多かったし、自分の打ち方が正義、という美学を強く持っていた。また、Mリーグでも打ち方のみならず、強打や盲牌ツモ、ため息などの所作がSNS上で問題視されていた。   その、萩原が…である。今まで何を言われても自分を貫き通してきた男が、行儀よく牌を並べ、一段目にのみのポンテンを入れたのである。 いろいろ言われているが、私は21人の中で一番プロ意識が高いのは萩原だと思っている。なにせ30年以上、「役者」という観られる仕事をしてきたのだ。その萩原が、麻雀プロになり、麻雀も所作も変えようと、もがき苦しんでいる。 他プロの反感があることや、麻雀や所作に対する指摘があることも、全てわかっている。 それに対して反論一つせず、行動で示しているのが萩原聖人という男なのである。 ロッカールームでの楽しい出来事を見せるのもファンとの距離を近くに感じさせるサービスの一環だ。しかし、何も語らず、行動で示す武骨な男が一人くらいいてもいいと私は思う。 このたった1500のアガリに対し、所作だけでなく内容も進化しようともがき続けている萩原の静かな努力を垣間見た。 その後、萩原はチャンスらしいチャンスがおとずれず、多井が爆発してダントツになってしまった。 萩原は「俺は基本的にクズ配牌」と言っていた。デジタル畑で育った私は「何言ってんだ」とも思ってしまったが、少なくともこれまでのMリーグでの萩原の配牌や展開はすこぶる悪いのは間違いなさそうだ。 そんなこんなで2着目で迎えたオーラス。 萩原はこの手牌を前に唸っていた。切ったのはドラ表示牌の。 うん?あがれば2着。でよくないか?リーチしたくないからイーペーコーとチートイツをみているのかな? そう思いながらみていた。次の巡目にツモってきたのが 切ればテンパイだ。はあと1枚しかないが、一応テンパイに受けておいて、をツモってきての変化を待つのが良いだろう。というか、それしか考えられない。 しかし萩原は、なぜかここで顔をしかめながら悩み続ける。 そして打ったのが ?? テンパイを取らないにせよ、からじゃないのか? はっ…。 わかってしまった。 萩原聖人は、まだトップを諦めていない。 30500点差の多井を一撃でまくる、唯一のルート「四暗刻」を残したかったのだ。 ――もしかしたら これまでの萩原なら当然の一打だったのかもしれない。 しかし、プロとしてこのままでいいのか、ワイプに映っているチームメイトや、自分を取ってくれた企業はこの選択を許してくれるのだろうか、その葛藤が萩原の表情をあそこまで崩したのだと推測する。 たしかに、茅森か高宮にまくられて3着になってしまったら、20ptのロスだ。しかしこれが四暗刻となって成就すれば、32+40で72ptのプラスになる。あと1枚だけのテンパイとちょっとした変化を犠牲にする価値はある、この選択は決して無謀ではない…と判断したのだろう。 結果的にすぐには打たれた。そして よりよい待ちとなってテンパイ復帰。しかし高宮がマンガンをアガって萩原は3着に落ちてしまった。

 

 

だが、それにしても、実利とロマンとの駆け引きの後に打ったは印象的だった。 あれがアガリとまではいかずとも、もう一つ暗刻ができるだけで周りはざわめきたっただろう。 私を含む多くのギャラリーが2着維持しか見えていなかった局面で、少なくとも萩原は遥か先にある頂きをみつめ、手牌のロスと比較して苦悶の表情を浮かべていたのだ。 たしかに開幕序盤の萩原の麻雀は赤入りに適応できていなかったかもしれないし、所作も問題があったかもしれない。しかし、終わるころ一番成長しているのは間違いなくこの男だと言える。

 

「星になれたら」はこんな歌詞で終わる。

 

動き出した僕の夢

高い山越えて 星になれたらいいな

 

萩原聖人は麻雀界でも本物のスターになれるのだろうか。 これからの巻き返しに期待したい。

(多井+72.0 高宮+6.7 萩原-18.5 茅森-60.2)

ZERO(ゼロ)

麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で『傀に学ぶ!麻雀強者の0秒思考』を連載中

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