中央線アンダードッグ
長村大
第17話
東2局、おれの親もホリエに軽く蹴られた。
親を迎えたホリエは、さらに2900をカジからアガる。そして次局、またもやホリエが手牌を開けた。
ドラ ロン
まだ5巡目、しかもダマテン。放銃したのは、これまたカジである。
おれだったら、迷わずリーチにいっている手牌だ。6000オールで一気に決めたい手であるし、安目のの処遇も考えねばならない。もちろんツモったらアガらざるをえないが、この手を出アガリ2900でいいのか。あるいは見逃すのか。
だが逆に、若い巡目ならば、リーチしたら抑え込まれるを拾える可能性も十分にある。そしてこの状況からの12000点は、半荘一回勝負の決まり手となる可能性もまた十分だ。
実は、おれの手牌にはが2枚にが暗刻で入っていた。これだけで残り2枚しかない。もちろんホリエは知る由もない、だがもしリーチとしていたらアガリはあっただろうか。
ifの話をしても詮無いが、いずれにせよホリエはダマテンの目にベットし、そして賭けに勝ち、12000点の報酬を得た。
これでホリエの持ち点は5万点に僅かに短いくらい、彼の冷静な打ち筋を加味すれば八割がた優勝だろう。少なくとも、見ている者はそう思ったはずだ。
しかし直後の東3局2本場である。
この半荘最大の山場がやってきた。
ドラ
配牌はこれである。
悪くはない。悪くはないが、高くなりそうもない。ものすごくツモが噛んで789の三色になるか、というくらいで、現実的にはピンフにドラが絡んでくれれば御の字だろう。
すぐにとツモってこのイーシャンテン。
ドラ
だが、ここから手が進まない。むなしくとツモ切りを続けている間に、西家のマツダに仕掛けが入った。をポンして
この捨て牌。
マツダはまだ一度も放銃していない二着目だが、ホリエとはすでに二万点以上の差がついている。できればなるべく大きな手をツモって、ホリエの親を落としたいところだ。当然ピンズのホンイツ手が本線となる。
ピンズも字牌も1枚も余らせていない捨て牌だが、実はこの時点でマツダはすでにテンパイしていた。
ポン
ここに、タンピン含みのイーシャンテンのホリエがを被せる。
ここからツモ切り。もちろん二着目のマツダに打ちたくはないが、まだなにも余っていない捨て牌。テンパイしていない確率の方が高いし、ドラ色でないホンイツなら3900止まりの可能性も高い。これくらいは当然押す。
そしてそのをマツダがポン、打。これもまた当然の仕掛けだ。テンパイからテンパイのポンだが、待ちが増えて、かつツモれば点がハネる。
次巡マツダがツモってきた牌は、ノータイムで加カン。リンシャンツモはならなかったが、新ドラにがめくれる。満貫のテンパイまで変化した。
おれが引かされたのは、もう押せるピンズはない、打。次にツモ打、ツモ打でこの形。
ドラ カンドラ
なんとかイーシャンテンをキープしている。が、がフリテンになっているのが大きなネックだ。ドラが現状2枚、フリテンを解消してテンパイできれば大きなチャンスだが、逆にピンズが残ったときにどうするか。
幸いにもマツダがなかなかツモれず、親のホリエもピンズを引かされて回っている気配である。手が入らないカジは、序盤からすでに死んでいる。
とはいえすでに捨て牌三段目、以外のピンズを引かされたらおれも終わりだ。
ジリジリする、というのはこういうことだろうか、などと頭の片隅で思いながらツモ山に手を伸ばす。
盲牌した瞬間、あっ、と思った。
恥ずかしい話だが、この牌のことをすっかり忘れていた。もはや打ち出されることのない生牌、マツダとモチモチかも、あるいはカジやホリエが抑え込んでいる可能性。そうである。
「リーチ」