その一牌を鳴くか否か…黒沢の選択、その結末と理由【熱論!Mリーグ】担当記者:東川亮

熱論!Mリーグ【Thu】

その一牌を鳴くか否か…

黒沢の選択、その結末と理由

文・東川亮【木曜担当ライター】2019年10月17日

麻雀は、絶え間なく選択が続くゲームである。牌効率などに照らし合わせれば「このほうがいい」という選択は多々あるが、それでも何が正解なのかが分からないという場面には、麻雀を打っていればいやというほど出くわすものだ。

「大和証券Mリーグ」2019シーズンは、10/15の試合で全チームレギュラーシーズン90試合の内10試合を消化した。今節が始まる前の順位がこちら。

やや上下の差が開き始めている感があるが、プロ野球で言えばペナントレースの約16試合、全34節のサッカー・J1リーグならまだ4節程度を消化したに過ぎない。

10/17は、順位表の下位4チームによる直接対決になった。その初戦で見せた、TEAM RAIDEN / 雷電、黒沢咲の選択に注目したい。

第1回戦は、以下のような組み合わせで行われた。

東家:佐々木寿人KONAMI麻雀格闘倶楽部

南家:小林剛U-NEXT Pirates

西家:鈴木たろう赤坂ドリブンズ

北家:黒沢咲TEAM RAIDEN / 雷電)

 

この半荘はまず寿人が点棒を稼いだものの、黒沢は東2局・東3局と小林から連続で5200点を出アガって加点。

 

 

しかし小林も黒沢の親番である東4局で2000-4000をツモ、南1局では3900点、南2局の親番では12000点をいずれも寿人からアガリ、大きなリードを作った。

小林優位で迎えた南3局2本場。黒沢は赤ドラの「セレブ」らしい配牌をもらうと、5巡目にを引いてテンパイ、ペンで迷わずリーチ。

このリーチには、他3者は非常に行きづらい。

まず、黒沢の切り出しがときて切りリーチで、打点も待ちも、ほとんどヒントがない。ただ、黒沢がトップと11300点差の2着目という点棒状況、加えて巡目を考えれば、愚形・安手ならテンパイを組み直すであろうことから、リーチをするならば相応の打点か形が伴っていると想定される。そして各者とも、自らの手はまだ勝負形と言えるほど整ってはいない。

さらにトップ目の小林は、2着目の黒沢への放銃は絶対に避けたい。寿人、たろうに関しても放銃すればラスを引く可能性が大きくなることから、前には出にくい状況となっているのだ。

親のたろうこそ粘りながら手をすすめていったものの、黒沢はラス牌のを悠々とツモ。供託リーチ棒を含めた収入で小林を500点かわしてトップ目に立ち、オーラスを迎えた。

さてこのオーラス、点棒状況はこう。

確かに黒沢はトップ目なのだが、実は非常に難しい立場に立たされている。黒沢は親番なので、他家のアガリか流局して自身がノーテン宣言をしない限り、この試合を終わらすことはできない。

そして、黒沢には点差をまくられるさまざまなパターンが存在している。他家のアガリであれば、自身の放銃は当然NG、小林には何をどうアガられてもアウト。佐々木、たろうが700-1300以上をツモると親かぶりで小林にまくられる。誰もアガらず流局しても、ノーテンだと小林がテンパイしていれば逆転されてしまう。

また、下位の2人に目を向けると、たろうはアガリさえすれば3着キープ、寿人は500-1000のツモアガリや1300点以上をたろうから出アガリ、もしくは2600点以上であればどこから出ても3着浮上となる。

すなわちこの局は、全員が早いアガリを目指してくる状況。その中で黒沢がこの局でトップを決めるには、寿人・たろうのロンによる横移動、もしくは流局時に黒沢、小林が共にノーテンを宣言するかのどちらかのみ。いずれにしても、条件は厳しい。

もし2着に落ちれば、4万点分の順位点を失うことになる。なお、寿人、たろうが500-1000をツモればMリーグ史上初となる同点トップになるが、その場合は順位点を分け合うため、2万点分の順位点を失う。どちらも、黒沢としては絶対に避けたい。

そのオーラス、黒沢は3巡目で自風の、場風のをトイツにした。は1切れだがその分鳴けそうな牌であり、アガるだけで言えば何とかなりそうな形だ。

6巡目、小林の打ったを寿人がポン。で2000点のイーシャンテンに構える。直後に小林は、黒沢が欲しいを打った。小林は対面なので、鳴くタイミングは一瞬。

黒沢は、このを見送った。

 

寿人の動きを受け、役なしのテンパイを入れていたたろうは次巡にカンのままリーチを敢行。黒沢はすぐにのトイツ落としでまわる。佐々木はたろうの待ちを暗刻にしてテンパイし、たろうのにロンの声。寿人は3着浮上、黒沢は苦しい条件をくぐり抜けてトップを獲得した。

ただ、なぜ黒沢はを鳴かなかったのだろうか。

黒沢のスルー直後の牌姿がこちら(はツモ牌)。を鳴けばアガリこそ見えるが打点は安く、鳴いたことで放銃リスクは高まる。また、打点上昇については都合良く見積もったとしても二役ドラの5800点、もしくはツモって符が上がっての2600オールがマックスだろう。そして上記のアガりで小林とつく点差は最大で12100点、本場が増える分、次局の小林に満貫ツモ条件を残してしまう。それよりは、自身が動かずにいた方がトップ率を高める、と考えたのかもしれない。寿人が動いたことでたろうもより前に出ざるを得ず、結果として両者で放銃し合う可能性も若干高まっているからだ。

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