昔麻雀を覚えたての頃は、麻雀の諸先輩方、いわゆる雀荘に巣食うオッサンたちに、こんなことを言われたものだった。
自分の手牌をしっかり打つ──、
これが、麻雀を知っているということ。
相手の手牌まで考えられる──、
これが、麻雀ができるということ。
自分の手が相手にどう見えているかまで意識する──、
これが、麻雀が上手いということだそうだ。
歳を取ってなるほどなぁと感じる反面、
実際はこの一つ一つをとっても、高い水準で行うことは難しいと思う。
EX風林火山・勝又健志の思考の膨大さとその緻密さは、おそらく何気なく観戦しているだけでは追いつかないものがあるだろう。
2月7日(火)の第2試合の勝又の麻雀から、この格言を上級者というものがいかに体現しているのかを見てみたい。
東2局、北家の勝又は4巡目と早々にこのテンパイ。
役なしでノベタンのダマテンとする。
もちろんノミ手とは言え端にかかった待ちで即リーチと行くのもそう悪いわけではない。
しかし、現在トップ目が35600点持ちのTEAM雷電・萩原聖人で、勝又は22700点。
まだ東2局の4巡目で、
やの受け入れもあるし、
ソーズを切っている者が一人もおらず、特に場況のいい待ちという判断もしかねる。
亜リャンメンにしてのピンフでかわす展開もあり得るため、勝又は変化を選んだ。
そして6巡目にツモで待ちのリーチ。
これなら待ちも望ましく、裏1枚での1300・2600まで期待できる。
ほどなくツモアガリ。
裏ドラはなかったが、最速のアガリとなった。
こんな単純な手牌でも、勝又の状況に合わせた選択のセンスというものを伺わせる。
自分の手牌をしっかり打つというのはこういうことなのだ。
東4局、南家勝又の配牌はドラドラではあるがこんな厳しい形だった。
これが、トイツを増やして6巡目にこう。
チートイツ一気もあるが、役牌を重ねてのメンツ手も残して4種のうち1枚は役牌を見切りたい。
勝又が選んだのは今トップ目の下家、萩原が切っただった。
は生牌で、枚数的に優位。
は1枚切れだがは自風につき、自分だけが使いやすい。
よってかを切るのだが、トップ目の萩原が生牌のを最初に切った瞬間である。
ということは、萩原の立場なら──。
何か他に安全な余剰牌を持っていると、考えられないだろうか。
それは、東家が切っているであった。
もちろん今萩原が抱えていなくとも、この後はまず脇が手に留めたくなる牌だ。
それから勝又は発を重ねて打。
これはが、を切っている東家北家に対してスジで切りやすいので一旦残している。
そして次巡にツモで、打。
は、場にが4枚出ていて使われにくく、山に残っている可能性が高い。
逆には、を切っている東家北家がターツを持っている可能性が高いので、重なりにくいと見て切り飛ばしたわけだ。
事実は北家が1枚使っているだけで、は東家北家共に使っている。
相手の手牌を、冷静に、着実に読んだチートイツの残し方である。
そしてツモでテンパイ。
チートイツドラドラで、単騎の即リーチだ。
萩原が確かに手に持っていたそのは、吸い込まれるように一発で放たれたのである。
三者の手牌構成を読み、あの配牌から劇的な直撃を果たしたこの手順は、
紛れもなく、相手の手牌を優れた精度で考えられる打ち手のものである。