文・東川亮【代打ライター】2023年5月16日
朝日新聞Mリーグ2022-23ファイナルも、いよいよ後半戦に突入。
全8日間の5日目を終え、渋谷ABEMASがやや抜けた首位に立った。もちろん残り6戦あり、まだまだどうなるかは分からない。5月16日の第1試合は、そんな麻雀の面白さを体現するかのような一戦となった。
第1試合
東家:白鳥翔(渋谷ABEMAS)
南家:松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
西家:萩原聖人(TEAM雷電)
北家:滝沢和典(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
嵐を巻き起こす四暗刻は、どこまでもクールに
もしも、麻雀に勢いというものがあるならば。
2軒リーチに手牌4枚で押し切って満貫をアガった白鳥に、そして渋谷ABEMASに、それはあるように感じた。現在は2位と124ポイント離しての首位。ここでトップを獲ってさらにリードを広げられれば、いよいよ悲願の初優勝の輪郭がハッキリと見えてくる。
今年こそ、シャーレに見守られるだけでは終わらない、何としても掴み取るという並々ならぬ思いが彼らにはある。ポストシーズンで好調を維持している白鳥だけに、この試合もこのまま勝ちきってしまうようにも思えた。
だが、このゲームは麻雀である。一寸先になにが起こるか、本当に分からない。
先制は萩原。6巡目と早いリーチだが、2度の役なしテンパイを拒否している。ドラを使ってのカン待ちには、今の手を絶対に高く仕上げようという意志が感じられた。
親番の滝沢としては簡単には引けず、そもそも牌の種類が少なくて安全牌もない。は通っていない牌だが、リーチの声が聞こえなかったかのようにスッと切っていく。
次巡、を引いた。前巡のも、今のも通っている牌ではない。それでも、滝沢のトーンは変わらない。
次巡、彼は少しだけ間を使い、「リーチ」と発声。
いつものように低く渋い、落ち着いた声で、打牌のトーンもいつもと変わらなかった。
唯一違ったのが、滝沢の手だ。四暗刻テンパイ。は既に山になかったが、が残っていた。
一発目、滝沢はいつものようにツモり、手を開け、点数を申告した。
「16000オール」
リーチ一発ツモ四暗刻、卓内3者の点数を巻き上げる怒濤の一撃。卓外では、チームを応援する仲間やファン・サポーター、そしてファイナルの熱戦を見届ける麻雀ファンたちの激情が渦巻く。
その中心、台風の目で、滝沢はいつものようにたたずんでいた。
もちろん、今アガった手の価値は十分過ぎるほど分かっている。胸の内にたぎるものもある。それでも彼は、麻雀中はどこまでもクールだ。それが、滝沢和典という男なのだ。
白鳥は冷静に、チームの利を追った
白鳥は四暗刻をツモられてなお、「まくってやろう」と気持ちを強く持っていたという。実際に滝沢の四暗刻の次局にはハネ満をアガって持ち点を回復したが、南1局の親番では萩原にハネ満を放銃。オーラスを迎えた段階で、滝沢とは4万点以上の点差がついていた。こうなれば、まず優先すべきは2着のまま試合を終わらせることになる。そして、もう一つ。
この局最初にテンパイしたのは松ヶ瀬。松ヶ瀬は、3着までは3200のアガリで届くが、2着には倍満ツモが必要となる。このままラスになるよりはと、白鳥の5pを赤含みでポン、そしてをチー。タンヤオドラドラ赤赤、満貫のテンパイを入れた。
続いてのテンパイは滝沢。倍満放銃でもトップというオーラス親番は、好き放題振る舞うことが許される、いわゆる「王様タイム」。をポンしてチャンタドラ1のテンパイ。優勝戦線を考えれば、ここで限界まで点数を稼いでおきたい。
続いて萩原もテンパイ。こちらはハネ満ツモで、現状のライバルであるABEMAS白鳥を逆転できる。ならば、現状のタンヤオドラ1はテンパイであってテンパイではない。
次巡、松ヶ瀬の手が待ちに変化。
そのロン牌を、チートイツの1シャンテンだった白鳥が持ってきた。ベタオリするだけなら2枚切れのが完全安全牌だし、やもかなり安全そうではある。
だが、白鳥は場を精査して、
をツモ切った。は、萩原・滝沢の現物ではあるが、2フーロして最終手出しの松ヶ瀬には、かなり危険な牌である。ただ、白鳥は松ヶ瀬には打ってもいいのだ。
なぜなら、白鳥と松ヶ瀬の点差は16600、満貫放銃までなら自身は2着をキープし、眼下のライバルである雷電の萩原をラスに落とせるからだ。ハネ満だと3着に落ちてしまうが、それでも雷電の上では終われるし、そもそも松ヶ瀬の手がハネ満なのは、手牌7枚のうちドラが4枚以上というレアケースのみだ。萩原が逆転手を、滝沢がさらなる大量加点を狙おうとしているのが明白な状況であることから、白鳥は松ヶ瀬に放銃しての幕引きを図った。