渋【Mリーグ2023-24観戦記 10/6】担当記者 東川亮


文・東川亮【金曜担当ライター】2023年10月6日

「渋」と呼ばれるその男は、解説者として抜群の人気を誇っていた。
移りゆく状況を分かりやすく解説し、柔らかい語り口で視聴者に届ける。
実況とのかけ合いはスムーズで、ユーモアも忘れない。
10月5日の大和証券Mリーグに登場したときも、コメント欄やSNSでは絶賛の嵐だった。

しかし、彼はれっきとしたMリーガーである。
輝くべきは解説席ではなく、戦場たる麻雀卓。ただ、成績を見るとここまでの2戦で3着・4着。特に前回の試合では、マイナス2万点オーバーの特大ラスを食らっていた。
もちろん、このままで終わっていいはずがない。

KADOKAWAサクラナイツ渋川難波
汚名をそそぐための戦いが始まる。

第1試合
東家:菅原千瑛(BEASTJapanext)
南家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
西家:勝又健志(EX風林火山)
北家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)

試合は、開始から20分足らずで南場へと突入した。ここまでは松本、勝又、菅原、松本とアガリが出ており、渋川はアガリどころかテンパイすらままならず、耐える状況が続いている。

南1局、渋川の手牌。赤牌2つがそれぞれメンツとリャンメンターツに組み込まれており、スムーズに使いきれそう。

他3者の手が伸び悩む中で、渋川の手は1シャンテンまでスムーズに進んだ。【6マン】から入ればピンフイーペーコーで2翻アップ。

門前なら高打点が狙える手だが、状況次第ではチーして3900もやむなし。それはマンズの並びが物語っていた。しかし、絶好のカン【6マン】を自力で引いてテンパイ。リーチをかければリーチタンヤオピンフイーペーコー赤赤でハネ満確定の手だが、

渋川は迷うことなく【9マン】を縦に置いた。ダマテンでも出アガリ満貫と打点は十分なので、アガリ率を最大まで見る選択。親の菅原の現物に【7ピン】があることも、ダマテン選択を後押しした。

なにより、ツモればいいのだ。最終ツモ番で【4ピン】をツモり、3000-6000。勝負どころをきっちりとものにし、ラス目から一気にトップまで浮上した。

南4局
全員が2万点台、Mリーグ公式実況の日吉辰哉であれば「全員集合」と叫んだであろう状況。渋川の手は2巡目にして役牌【南】が暗刻になり、形だけを見ればかなりアガれそうではあった。

ただ、道中で安全牌候補の【白】を抱えると、ドラの【中】を引いてカン【2ピン】ターツ払い。

10巡目の【6ソウ】引きで、メンツから【2ソウ】を中抜き。完全に手を崩した。

理由は4者の持ち点にある。渋川はトップとはいえ差はわずか、もちろん高打点のアガリで突き放せればいいが、満貫放銃でラスまで落ちる以上、手組みは守備重視になる。
一方、2着目の松本との点差が4000点以上あるのでノーテン流局でもトップは確定、他の3者が2000点以内で競っているため、横移動での決着も十分あり得る。
自身の手にドラが孤立ということもあり、局が後半に差し掛かったところで完全な守備モードへと移行した。

直後、松本からリーチが入る。渋川としてはやめ時バッチリである。
松本の立場で見ると役なし愚形のリーチは不服も不服、なおかつリーチをかけると供託の1000点で一時的に勝又の下に潜ってしまうが、勝又とて松本への放銃はラスになる可能性が極めて高く、真っすぐ押し返すのは難しい。流局しても2着は確保、ツモって一発か裏が絡めば逆転トップ。微妙な点数状況も加味しての判断だった。


決着は、ラス目の菅原からの出アガリ。現状リーチのみの1300、松本の手が開いたとき、渋川は「裏3だけはやめてくれ」と願ったという。

裏ドラは1枚も乗らず、松本は2着まで。

総局数は最短の8局。流局はなし、時間にして45分少々というMリーグでは珍しいスプリント戦で、渋川は小さいながらも自身の今シーズン初トップを獲得した。

渋川はこの日、作戦を2つ用意してきたという。

・解説だと的確なのに選手だと失敗していると言われるので、頭の中で解説をしながら「解説者・渋川」として冷静に打とうと心掛けた
・前回の試合でかかりすぎたことをチームメートに指摘されたので、2着3着も受け入れる気持ちで、勝負手以外はしっかり我慢しようと決めた

作戦通り、渋川は冷静なダマテン選択でハネ満を決め、オーラスは場の状況をしっかりと見極めた立ち回りでリードを守り切った。アガリ回数は4選手最少の1回、一方で放銃は唯一のゼロ。有言実行とは、まさにこのことだ。

渋。
有能解説者であり、選手としても確かな実力を持つ、KADOKAWAサクラナイツが誇る主戦力の一人。
そして何よりも、ファンに愛されるMリーガーである。

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