「手が早い可能性が高い」
このように判断することが出来る。

そこでこの仲林の手牌。ドラ0でソウズのイッツーになるか、役牌が重ならないと厳しい手。だが今はトイツ落としが終わった直後であり、この瞬間により安全な牌や、形を補強する牌を引いてきた可能性も十分にある。一応手が進む可能性もあるし、何よりここから降りるには安全牌が足りなさすぎる。そこでこの瞬間に
を先に打って、手形を維持する選択を取った。

だが、その後の猿川手出しはまさに赤信号。1段目にして猿川のテンパイ率が高く、ここからテンパイするには三元牌を全て打たなければならない。
三元牌は、打時点での考察を行った通り、
「とのトイツ振り替わりが起きた時にホンイツで当たりうる牌」であり、かつ
「よりも質の高いトイツ」
である。
このドラ0でアガリの見込み打点も低い手から放銃するわけにはいかないという、仲林の手牌価値判断、河読みの深さがうかがえた1局だった。
東3局の手牌の見切りも絶品。

親の猿川がダブ→ソウズのペンチャン払い、伊達は役牌切りの普通の切り出しから3巡目
。明らかに自分より早くて価値のある手牌に見える人が2人もいる。
対して自分は東2局と同じように、ドラ0、愚形多めと、勝負できない材料が揃いすぎている。ここは2枚切れのにも、早そうな2人の現物にも手をかけず、最大安全を取りにいく打
とした。
「ミスのない丁寧な打牌」というと、どうしてもAIのような
「まっすぐ打ってみて、行ける手なら進む、ダメなら降りる」というものが想起されがちだが、仲林の強さはそれだけではない。
この2局を通して、自分の手、そして相手の河を見た上での手牌価値判断が卓越しており、さらに
「人間的にミスが起こりづらい場面に自分自身を誘導している」印象も受けた。
この場面で打としても安全牌は足りるのかもしれないが、そこからのベタオリ失敗のリスクに比べて、ペンチャンを残したアガリ成功のリターンとその割合は大きくない。とすれば、ここから
を残してミスしづらい場面に持って行った方が、人間的にはやりやすいといえるであろう。
こうして迎えた8巡目の手牌。

安全ターツ、安全面子、安全なと並び、役の種である
は残していたため、イーペーコーや平和といった役も見えている。ダマテンに構えるもよし、
から入ればリーチをかけるもよしであり、周りからリーチがくればベタオリには全く困らない。この手牌を貰えば誰でもミスが少ない進行を取れるのだが、その「ミスが少ない手」に持っていけるのも仲林の力である。
そんな「教科書に載せたい打牌」を見せ続けていた仲林だったのだが、南1局に注目の場面が訪れる。

ここまでチャンス手が入ってこなかった仲林。南場の親番にようやくアガれそうな手が来る。まずはここから打。カン
が先に入った時の良形率、カン
がドラ表示牌のため残っていてもアガリにくく、
と払いきることがあっても良いとの構え。

を引いてタンヤオ、三色、ドラ2のテンパイ!ツモれば跳満の高打点、ここはダマテンに構える。

ツモ。一見ツモ切りそうだが、ここまでスパスパと切ってきた仲林がこのタイミングで少考を入れ、そして打
として三色を拒否していった。
それには猿川の仕掛けが関係している。猿川の仕掛けを考察しながら、仲林の打の意図を考えてみよう。

猿川は役牌のポンの後、
を両面でチーして打
、
のテンパイ。

改めて盤面を整理する。は現物で
は猿川の中筋、どちらも通りそうには見える。
ただ、猿川は現状トップ目。はドラとはいえ、手牌でどうしようもないほど必要がなかったら、5巡目の
と入れ替えて安全度重視をする選択肢があるだろう。すなわち
は手牌に関連している可能性が高い。
ではに関連している待ちで残っているものを…となると、これがかなり否定されている。
、
や
のシャンポン形はないし、
のような形も否定されている。
の
待ちは
のワンチャンス、
の
待ちは
と
のダブルワンチャンス。そう考えると、
のリャンカン形からカン
待ちを選択した可能性がかなり考えられる。猿川は
を使っていなさそうだからこのリャンカンは1ハンか2ハンで選択した可能性があり、その場合はトップ目であることもあって2ハンになるカン
より枚数重視のカン
を選択した可能性が十分にある。3ハンと2ハンなら打点意識…となっても、2ハンと1ハンなら枚数重視にする可能性は高い。
トイツのピンズ以外愚形待ちの可能性もかなり薄い。
例えばのような形では
を引いてくることで良形変化できるため、
が待ちに関わらずとも残ることがあるのだが、河を見てみるとそのような愚形待ちのパターンすらかなり少なくなっている。これは全て書くとあまりに膨大になってしまい本旨とずれそうであるため、ここでは割愛させていただく。
さらに、低打点愚形待ちの可能性を、猿川の加カンせずツモ切りがさらに上げている。愚形待ちの1000点であればカンはできないだろう、そのような思考も含まれていたのかもしれない。マンズ・ソウズ愚形でないのに挙動に愚形率が高い、それはピンズの愚形率アップを後押ししていたのだろうか。
自分の打点は12000、ツモ18000が打によって7700、ツモ12000になってしまうが、それでも高打点のあがりには変わりないし、何よりこの手が放銃によって流れてしまうことが大損になってしまう。このことから、仲林は打
とせず、打
として三色を拒否したのであった。

結果的にはこの猿川のチー、両面は両面でも亜リャンメンで、それは単騎の性質を伴う形。
は孤立牌でも雀頭が不確定のため、枚数兼打点で残っていた牌であった。
仲林圭。それは、オーソドックスで丁寧な打牌を繰り返しながら、時に卓越した手牌価値判断と河読みで、オリジナルの打牌を生み出すトッププロ。一見何の変哲もない打牌にもその精緻な思考が入っていると思うと、これからもその一打一打を見るのが楽しみで仕方ない。