勝負のカギは細部にこそある 多井隆晴が生み出した400点の差【Mリーグ2024-25観戦記 11/26 第1試合】担当記者 #東川亮

勝負のカギは細部にこそある 

多井隆晴が生み出した400点の差

文・東川亮【火曜担当ライター】2024年11月26日

第1試合

東家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)

南家:本田朋広(TEAM雷電)

西家:菅原千瑛(BEAST X)

北家:多井隆晴 (渋谷ABEMAS)

 

大和証券Mリーグ、11月26日第1試合、南4局

2着目の渋川が赤赤の手牌でリーチ。トップ目の多井とは5600点差で、ツモか直撃なら無条件、脇からの出アガリだったら一発や裏などの1翻が加われば逆転トップとなる。

3着目の菅原は、本田との点差が大きくラスはほぼないような状況、そして点差的には満貫ツモでこちらも逆転トップ。ドラを引いて一手進み、場に出ていないダブ【南】を切っていく。だが、手の内には【6ピン】がぽつんと孤立している。

次巡、危ないのは承知で、それでも菅原が【6ピン】を河に放った。

渋川はロンを発声し、手牌を倒した。

もちろん、本意ではないだろう。ただ、3着目の菅原が危険牌の【6ピン】を押してきたということは、アガリに真っすぐ向かっている、という意思表示に他ならない。見逃してアガリを逃し、逆に菅原にアガり切られてしまえば、自分はトップどころか3着落ちが濃厚だ。

それに、アガれば最低限2着でプラスは確保、裏が1枚のればトップだ。裏ドラに手を伸ばす。

・・・乗らず。

結果、多井が400点差で逃げ切ってトップ。

薄氷を踏むかのようなラストに、感情の起伏がにじみ出る。何はともあれ、これでチームに11月7日以来となる貴重な勝利を持ち帰った。

渋川は試合後に開口一番、東4局の選択について反省を口にした。多井が終盤に切った【8マン】を鳴かなかった場面だ。

【8マン】をチーするといったんは形式テンパイだが、【2マン】【6マン】を引くか鳴くかできれば、一気通貫の役ありテンパイへと変化する。ドラ3で打点も十分だ。だが、その瞬間に他家への現物がなくなること、序盤からマンズの上目がバラバラと切られていて、2枚見えとはいえ【8マン】がよさそうということで、一回はスルー。

だが、渋川はテンパイできず、逆にツモ切った【9ソウ】を多井に鳴かれてテンパイを取られてしまう。

この局は多井の1人テンパイで終わり、加点しての連荘に成功した。

一方、多井のこの局の選択も興味深いものがあった。まずは1シャンテンのカンチャン・シャンポン選択で、【6ピン】のシャンポン受けは見切ってカン【5ピン】を固定。まずは見た目で多いところを残す。

その後、【1ピン】を引いて選択。カン【5ピン】【1ピン】【9ソウ】のシャンポン受けは見た目枚数で五分だが、多井は【1ピン】をツモ切った。カン【5ピン】はピンズ上目の好形変化もあり、またソーズ4連形を生かす形も捨てがたいところ。アガリを見据えて、正解ルートを選びだそうとする。

受けのひとつ、【5ピン】は山に3枚残っていた。しかし、渋川がツモ切り、さらに菅原から立て続けに切られてしまう。多井にとって、これは激痛。特に3枚目の【5ピン】などは、チーしなければテンパイすら難しくなるかもしれない。それでも、多井は声を出さなかった。

多井が【5ピン】をチーしたらどうなるか。相手からすれば、まずは親リーチが来なくなり、捨て牌からホンイツなどの一色手もなさそうで、ドラを使わない限りは安い手に見える。特にドラを複数持っている側からすれば、多少のリスクを負ってでも攻めやすい局面になるだろう。

そうして攻め込まれたときに、形式テンパイではそうそう粘れない。また、【9ソウ】と1枚切れの【西】という牌は、普通に手を進めているように見える多井の河に対しては、やや切りやすい。慌てて形式テンパイを取らずとも、まだチャンスはありそうではあった。

そして渋川の切った【9ソウ】をポン。こうしておくと、相手からすればトイトイでの中打点が視野に入り、少しではあるがチーよりもプレッシャーがかかる。多井は、そうした効果も踏まえてチーではなくポンでの形式テンパイを狙ったのだという。

この辺りの選択に関して、多井は試合後に「平面には出ない相手との距離感があった」と語っていた。やはり、卓につかないと分からないこと、というのがあるのだろう。

なお、もし多井が【5ピン】をチーしていたら、【8マン】が渋川に流れていた。そこでリーチをかけられていたら、打点も形も魅力に欠ける多井の手では、オリに回らされていた可能性が高い。また、多井が【5ピン】を鳴いていたら渋川は前に出やすくなって、鳴きの判断なども変わってきていたはずだ。

これに関しては結果論だが、【5ピン】を鳴かなかった」というのは多井の意志ある選択であり、それが呼び込んだ結末、という言い方をしていいだろう。

流局後、自身の手がもたらす最良の結果を得られたことに、多井は少しだけ表情を崩したように見えた。

流局で終わった東場の1局は、記録だけで見ればそこまで重く取り上げる必要はないように思えるかもしれない。ただ、最終的にこの局のテンパイ料が、多井が最後に逃げ切るわずかな差となって現れた。

麻雀において、派手なアガリやめくり合いは確かに見どころの一つだ。ただ、それだけが麻雀の全てというわけではなく、むしろこういう地味な局面にこそ、勝負のカギというのは秘められているのではないだろうか。そして、強者こそ最善の結果を得るために、こうした細かなディテールにこだわっているのだと思う。

チームはまだまだ厳しい状況が続いている。大勝して一足飛びに窮地脱出ということもないわけではないが、やはりABEMASがここから巻き返すとするならば、どこまでも細部の選択にこだわりつづけた先にしか、道はないのではないだろうか。そして彼らは、それができるチームだ。

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