勝又健志が
目指しつづける「特別」
文・渡邉浩史郎【木曜担当ライター】2025年1月9日
第1試合
東家:鈴木優(U-NEXT Pirates)
南家:鈴木たろう(赤坂ドリブンズ)
西家:竹内元太(セガサミーフェニックス)
北家:勝又健志(EX風林火山)
「どうしよう…… ない」
本日一戦目を終えて、裏インタビューの切り出しは異色のスタートを見せた。
竹内がトップとなったこの半荘。オーラスの勝又の粘りを、竹内が優への差し込み気味の打牌で躱したのが決まり手。勝又は箱下のラスとなった。
インタビューに選ばれたのはもちろんトップの竹内、そして2着のたろう。
裏インタビューになったのは優と勝又。改めて冒頭のセリフへと戻ってくる。
良くも悪くも「普通」の半荘であった。全員が手牌に対して当然の打牌で、掴み裏目を引き続けた勝又がラス。
裏インタビューでは「あの時の思考がどうだった」と聞くこともできないくらい、全員が「普通」の手牌進行であったということだ。
「ラスになるべくしてなってしまったラス」とは解説:村上の言。それぐらい今日の勝又はついていなかったが、勝又の見解は少し違っていた。
「それ(選べないように見える選択)を選べなかったら強くなりようがない。『普通』に打っているだけならプロである価値も……と思うんで」
勝又のいう「普通」とは、そして勝又の目指す「特別」とはなんであろうか。
例えば【東1局】、竹内の先制リーチを受けたところで聴牌。現物のを切って、悪くないカンで追っかけリーチを打つのが今の「普通」だろう。勝又もそれを選択した。
これが仮にが二枚切れであれば? 三枚切れならば? 切られたタイミングは?
変化する場の状況によっては、読みで「普通」と「特別」をひっくり返せるかもしれない。勝又の言っていることはそういうことではないだろうか。
【東4局】、勝又が直接の敗因として挙げたのがこの局。役牌を鳴いてのドラ赤が見えるイーシャンテンから、ドラが出る聴牌は拒否しての切り。
次巡を引いての切りが……
優に捕まっての親落ちとなってしまう。
これだってあまりに「普通」。もちろん聴牌を取っていれば瞬間の放銃回避の未来こそあったが、この巡目の愚形2900聴牌を外して打点を作りに行った勝又の選択は「正しい」とされよう。凡人では結果論の一言で、反省にすら値しない一局だ。
しかし勝又は自分の手牌だけの結果論で、考えることなく片付けてしまうことを嫌う。
もちろん後からしっかり考察をしたうえで、この局、この半荘を仕方がなかったで済ますかもしれない。
だがその前に考えられることは何かなかったか。それを追求しようという大いなる意思こそが、勝又を軍師たらしめている理由だ。
オーラスの局面もそうである。【南4局3本場】、竹内の仕掛けと優のドラ切りの濃い河に挟まれて、勝又は二枚切れのと一枚切れのドラとのシャンポン聴牌。
勝又はを切っての外しとした。が四枚見えているため、くっつきとしては弱めだがこれが一番「普通」である。
しかし勝又は河のバランスで切りもあり得たと語る。
確かにピンズの下は3人ともに組み込まれていそうで、見た目以上に山にいる枚数が少ないかもしれない。自身でを切っているとはいえ引きの三面張は強そうだし、引きでの待ちもめちゃくちゃ悪いというわけではない。
例えばマンズのくっつきが悪くないという結論が出ていれば、現状の聴牌を維持しておくという選択だって出てくる。何かの間違いで山に一枚いたをひょっこりツモってしまえばそれだけでツモ三暗刻ドラ3の6000オール。それだけで優を捲ることができる。
アップデートを果たした次の勝又であれば、このを捕らえて……
こので一発ツモ。
今日の勝又では和了れなかった「特別」を、和了り切るかもしれない。
生涯やり続けていても完全に同じ状況に巡り合うことはないという麻雀。
次に同じ手牌、同じ河があったとしても、相手の手牌はまるっきり変わっているかもしれない。だからこそ期待値的な「正解」、「普通」を求めるのである。
勝又は少し違う。完全に同じ状況でなかったとしても、それでも確実に勝又の中に経験値は蓄積されていく。それは似たような局面で、勝又に蓄積された経験値は期待値を超えた「結果正解」のように見えてしまう唯一の手順を魅せてくれるかもしれない。
なぜなら彼自身もまた「特別」な存在であるからだ。