浅井はを切った。少なくとも、太には当たらない牌。最終手出し
の本田に危ない牌であることは重々承知しているが、現状トップ目で、本田が
赤の2000点で太の親を蹴ってくれるなら、それはそれでOK。

に、本田からロンの声がかかった。
開けられた手にはドラが雀頭、ドラドラ赤の8000。
本田としては最高のアガリ、堂岐としては激痛の放銃。

「本田が勝つことを祈ったほうがよかった」
「チーム状況的に打ってもいいのかなと思ったけど、たぶん間違っていた」
試合後の、堂岐の弁だ。
それはリードによって生まれた、堂岐のわずかな隙だったのかもしれない。
■雷電に、失うものは何もない

加点した本田は、オーラスの親番を2着目で迎えていた。トップの浅井とは5100点差、十分に射程圏内。そして雷電の立場としては、取れるトップは全力で狙いにいかなければならない。

3巡目、本田はとペンチャンターツを外していった。残しておけば一気通貫もある形だが、受け入れが狭すぎる。この局のテーマは、とにかく先手を取ってアガりきること。そのために一番いらない部分をスパッと見切った。

6巡目に引いたは、いったん手に留める。生牌で、自身が半端なところから鳴かせて相手の手を進めたくはない。

が、1シャンテンになれば話は別。最速テンパイを目指す以上、目いっぱいに構えてアガリを目指す。に声はかからなかった。

ピンズが埋まったなら、もちろんピンフになるリャンメン待ちでリーチだ。
雷電としては、こういうチャンスを全てものにするくらいでなければ、優勝はないだろう。リーチをかけたら、あとはもうやることはない。
本田は願った。

「黒沢さん降臨しろ!」
黒沢と言えば、そう。

特技、ドラ引き。
高目のドラを一発でツモって、

裏1の6000オールは、まさに黒沢の「セレブ麻雀」。
トップを手中に収めるのに十分過ぎる一撃だった。

TEAM雷電には、失うものなどない。
今シーズンに最も恐れていた、選手入れ替え規定によって失う可能性のあった「仲間」は、自分たちの力で守り切った。
そして、ファイナルのスタートポジションこそだいぶ遅れを取っているが、敗れた5チームにはない優勝の可能性が、彼らにはある。
だったら、それをつかみに行くだけだ。
「雷電の麻雀は?」

「おもしーんです!」
故郷の言葉が自然と口を突く。
この日を終えて残り10戦、ユニバースと歩むサンダーロードの果てに、彼らが追い求める栄光はあるか。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。