狙うのか、狙ってもいいのか
ファンを湧かせた
魚谷侑未の
役満・九蓮宝燈チャレンジ
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2022年2月14日
大和証券Mリーグ、2月14日の第1試合は、松ヶ瀬隆弥が大きな勝利を収めた。
東2局1本場では村上の先制リーチを受け、ホンイツドラドラのテンパイからのトイツ落としでまわり、
さらに高打点、タンヤオチンイツドラドラの倍満、4100-8100に仕上げた。
東3局1本場の親番ではリーチツモピンフ赤裏裏の6000は6100オール。チャンスをものにして高打点を決めつつ、試合を通じて放銃をゼロに抑えるという見事な戦いぶりだった。
だが、この試合の観戦記を書くのであれば、やはり彼女の選択を取り上げさせていただきたいのである。
魚谷侑未、彼女が追ったのは夢ではなく、可能性だった。そして我々ファンはその姿に、その闘牌に、心を躍らせる。
第1試合
東家:魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
南家:村上淳(赤坂ドリブンズ)
西家:松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
北家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
南1局1本場。親番、魚谷の第1打を終えての牌姿である。ピンフ高目一気通貫の1シャンテン、1巡目としてはSクラスの手牌と言ってもいい。だが、その先には麻雀打ちの夢もほの見える。
6巡目、一気通貫が完成してテンパイ。ピンフ一気通貫、リーチをかけてアガれば満貫からで、2万点以上離れたトップ目の松ヶ瀬も一気に射程圏内になる。ましてやツモって一発や裏ドラを絡めてのハネ満に仕上げれば、一気に松ヶ瀬を抜き去りトップ目に浮上だ。しかし、この手の限界を今決めていいのか。本当に決めていいのか。
魚谷は手を止め、考える。そして一つうなずき、手牌を選んだ。決意の表情。
選んだ牌は、テンパイ外し。だがこう打った以上、彼女にとって、そして見ている我々にとって、この手は2シャンテンである。
役満・九蓮宝燈。
門前チンイツかつ
1112345678999+X
の形でのみ成立する極めて難易度が高い役の一つであり、麻雀において最も美しいと言われる役満である。キンマweb観戦記ライター・ZEROさんの著書「麻雀手役大全」によると、出現確率は0.0002パーセントだそうだ。Mリーグでも、まだ誰もアガっていない。
ここから九蓮宝燈になるには、少なくともが2枚必要だ。だが、逆に言えば2枚を使えればいいと言えるし、もし先に自分で引けたなら9面待ちのいわゆる「純正九蓮宝燈」であり、たとえそうならなかったとしても、チンイツになる可能性もそこそこありそうで高打点は十分狙える。そして巡目もまだ早い。満貫なら12000だが、役満になれば48000。アガリからいったん遠ざかっても、魚谷は究極を目指した。
これは、現状の点数状況も決断を後押ししたと思われる。現状魚谷は2番手で、3番手松本との点差は3万点以上、逆転される可能性はそれほど高くはなさそう。そして満貫では松ヶ瀬からの直撃でない限り、迫りはするが逆転には至らない。そして前述の通り、九蓮宝燈は滅多にお目にかかれる役ではないが、それが現実的に見える材料がある。ならばここは、思い切ってチャレンジしてもいいのではないか。そんなふうに考えたのかもしれない。
だが、次巡魚谷のもとに訪れたのは、なんと。前巡にリーチをかけておけば、6000オールだった。
瞬間、奥歯を噛みしめたように見えた。だが、もちろんこの裏目も想定した上でを切っていたはずだ。この局は松本のリーチを受けて対応にまわるも手を組み直し、逆に松本から7700は8000の出アガリを決め、加点には成功した。
南4局。魚谷とトップ目松ヶ瀬の点差は17100、そして3番手村上とは5万点近い差がある。多少無理をしてトップを狙っても許される局面、3巡目の役なしペンテンパイはアガリにくいし打点もないので、当然のように外す。
これならどうか。6巡目、役はないが待ちが、先ほどよりははるかにいい。
これも取らず、マンズのメンツを壊す打。チンイツでのハネ満直撃か倍満ツモ・・・いやいや、もちろんそこも視野には入っているが、理想は違う。まさかまさかの、この試合2度目の九蓮宝燈チャレンジである。山に2枚残ったを引き入れれば、実現の可能性は一気に高まる。
ソーズが伸び、12巡目に門前でチンイツテンパイ、待ち。リーチをかけてツモれば倍満で逆転トップ。ただ、ダマのままだと松ヶ瀬からの直撃ならトップだが、それ以外はツモっても2着。そして何より、かを引ければ高目九蓮宝燈のテンパイへと化ける。
ここを最終形としてリーチか、それともまだ先を見るか。
魚谷は、テンパイ打牌を縦に置いた。松ヶ瀬からの直撃が取れるとは、本人も思っていなかっただろう。それでもリーチをしなかった理由はただ一つ、さらなる手変わりだ。
ゆえに、松本から打たれたこのを、一回スルーする選択もあったかもしれない。九蓮宝燈変化はもちろん、山越しでの松ヶ瀬からの直撃も考えられる。
だが、魚谷は試合を終わらせた。これを見逃して、後にアガれるかは分からない。巡目もかなり深くなってきており、ここは確実な12000の加点を取った。
試合後、魚谷は九蓮宝燈を「特別な役満」だと語った。しかしだからといって、彼女はやみくもに九蓮宝燈を目指す打ち手ではないし、ましてや視聴者受けなどは微塵も考えていなかったはずだ。自身の手材料、点数状況、そしてチームのポイント状況を総合的に精査し、「狙える、狙ってもいい」と判断したからこそ、九蓮宝燈へと向かった。損得で言えば損なのかもしれないし、魚谷の判断を批判する声もあるかもしれない。でも、彼女が役満を狙ってくれたことで、放送が大いに盛り上がったのは紛れもない事実だ。