
黒沢咲
「ユニバースのみんなが、私達をここ(ファイナル)に連れてってくれたんだなって。」
惜しくもトップには届かず、結果は2着。サポーターに勝利は届けられなかった。それでも試合後のインタビューでは、あの頃の、一目惚れしたあの日のような、やわらかな微笑みを代わりに届けたのであった。
そして、その想い、黒沢の雷電魂(ライデンティティー)という名のバトンを受け継ぎ、第2試合目・最終戦を託されたのが…

長年に渡って麻雀界に明るい架け橋を築いてきたチーム・ドラフト1位指名の萩原聖人である。
南2局1本場

この局は、まだ僅か7巡目。それでも仲林はすでに二副露を入れ
・
・赤・ドラ2の満貫のテンパイに辿り着いていたシーン。
待ちは
場況を加味しても、文句なしの好形である。

そこへ、2回目の親番の権利も失った萩原の元に、仲林には通っていないが静かに舞い込んできたのであった。
ここで一度、最終戦を迎えた時点での上位3チームの優勝条件をおさらいしておこう。

現状首位を走るのはU-NEXT Piratesの+340.0。
もちろんPiratesに限り、トップを獲れば文句なしの優勝。
Mリーグ史上初となる、悲願の“連覇”達成となる。
また、2位・セガサミーフェニックス、3位・赤坂ドリブンズそれぞれの優勝条件はというと…

2着でも、優勝の可能性が完全に消えるわけではない。ただし、その場合は残る2チームを自分たちより下に沈めなければならないという、極めて厳しい条件がつく。つまりトップは、ほぼ必須と言って良いだろう。
さらにPiratesに対して、ある程度の素点差をつけての勝利が求められる。逆にPiratesは2着にさえ滑り込めば、優勝に大きく近づくとも言える。
つまり萩原からすれば、この局面での仲林に対して大きな放銃。その一打で優勝者を決定付けてしまう可能性すらあるのだ。

それでも、萩原は強い意志を込めてを叩き切った。それも、その動きには躊躇いの色は一切なかった。
それは、ただの“後がない”状況からくる、無謀な一打だったのだろうか。
──いや、違う。
その証明は、すぐ次の瞬間に訪れることになる。
先ほどまでの素早いツモ切りとは打って変わり、今度はツモ牌を、ゆっくりと手元へ引き寄せたのだ。

映し出されたのは仲林への放銃牌となるである。まだまだ、通ってない牌など山ほどあったのだが…

しかし、この時の表情をご覧いただきたい。
この牌が“絶対に当たる”と知っているかのような、そんな葛藤が、彼の瞳には滲んでいた。
まるで未来の結果を、すでに知っているかのように。

すると、時が止まったかのような静寂の中、萩原の目が何かを決したように僅かに動いた。──その手が選んだ先…

現物ではない中筋のであった。
萩原もまた俳優業の傍ら、長きに渡って麻雀界に身を置いてきた一人である。つまり、誰よりも負けないくらい、麻雀を愛しているという事だ。
そして今、ここまで共に歩んできてくれた“ユニバース”の皆んなに、最後の栄光を届ける為に──
彼は牌に対して真摯に向き合っていたのである。
だから…

たとえテンパイが入り、その一打が仲林への放銃となったとしても…
一体誰が、彼を責められるというのだろうか。

少なくとも、今シーズン目にしてきた数々の放銃の中において、この一打は最も美しく輝いていたように見えたのは言うまでもない。そして、その目は、まるで少年のような悲しい目をしていた。

この瞬間、TEAM雷電の4位が確定した。
今シーズン、雷電はレギュレーションの影響により、チーム編成において大きなピンチを迎えていた。その重圧は、私たちの想像を遥かに超えるものだっただろう。
だからこそ。その困難を乗り越えた先に、きっとまた新たな“雷電らしさ”が生まれるはずだ。

そして、表彰式での瀬戸熊の言葉が印象的であったので紹介しよう。
「優勝します! …と言いたい所ですが、次なる目標はファイナルで熱いめくり合いをすること。その時は、きっとユニバースの声援が力となって優勝に近づけると思います。ありがとうございました。」
来シーズンの、重圧から解放された“面白い”雷電らしい麻雀に期待したい。