熱論!Mリーグ【Mon】
すべては次の航海のため…
朝倉康心の
“勝つための準備”
文・梶谷悠介【月曜担当ライター】2018年12月3日
ここに勝ちたがっている男がいる。
もちろん選手は皆勝ちたい。だがこの日の朝倉はいつも以上に勝ちたがっていた。
それもそのはず。好位置につけていたパイレーツも11月は大きくポイントを減らし、気づけば雷電にかわされ5位に落ちていた。
朝倉もその月、個人では100pt近くマイナスしており、ラス確定のアガリもしなければならないほど苦しい展開が続いている。
『すべては次の勝利のために』
負債を少なくし、我慢をすることはトータルで浮くために必要なことだと誰よりも理解しているが、それも浮上できればこそ報われるものである。
朝倉にとっての勝ちとはなんだろうか。
考えてみたら麻雀において勝ちを定義することは難しい。
Mリーグでは最終的にチームが優勝することが勝ちなのだろうが、1日単位の短期的なスパンでみるとややこしくなる。
これが野球やサッカー、あるいはボクシングや将棋なら勝ちの定義は一貫しているが、麻雀では競技者が4人いることとポイント制なのが関係して勝ちにも大小、負けにも大小がつくことになる。要するに勝ったと納得するかどうかは本人次第であることが大きい。例えば萩原なら魅せて勝ったといえなければ納得しないだろう。
もう一度問う。朝倉にとっての勝ちとは?
これは対局を見ていかなければならない。
起家 萩原聖人(雷電)
南家 朝倉康心(Pirates)
西家 茅森早香(フェニックス)
北家 鈴木たろう(ドリブンズ)
東2局1本場
親の朝倉はこの手をダマに構えた。
下家の茅森がをポンしており、捨て牌が萬子のホンイツに見える。最終手出しから早いテンパイが入っていてもおかしくない。
が場に2枚見えていて頼みではめくり合いに不利との判断、そして
明確に危険な牌を持ってきたときにまわるためだ。
茅森はの後、手出しで切り。いよいよ萬子が危なく見える。
実際ホンイツではなかったが、のテンパイが入っていた。
朝倉、出てきたをポンしてここから切り。
が危ないと見れば打のカンテンパイとしてもよさそうだが、もカンやペンで当たる可能性がある。親とはいえ発のみの安手。余計なリスクは負わないという判断だ。
朝倉は常に冷静に現実を見ている。
東4局0本場
好形のイーシャンテンだったが親のたろうから先制リーチが入って朝倉の手が止まる。
は1枚切れだが仮にテンパイが入ってもドラ側のかを押すことになる。現状ドラのない手ではリスクに見合わない。どうせテンパイしても押さないのならを切る意味がない。ここは現物のを切った。
確かに親リーにかいくぐって安手でもアガリをものにすればかっこいい。だがそれは朝倉の感覚では勝ちではない。かっこいいと勝ちは違う。
これと対照的なのが萩原だ。おなじくドラのない手だが親リーに初牌のを切っていく。
そしてこの局は萩原がテンパイを入れ、価値ある500/1000の1本場をツモアガってしまった。
同じような状況で片方は勝つためにオリ、片方は勝つために攻める。麻雀で勝つということはかくも難しい。
朝倉は飲み物にストローをつけていた。女性ならば化粧落ちを防ぐために使うのだろうが、男性である朝倉が使う意味、リアリストならば理解できるはずだ。
そう、ペットボトルから直接飲む方法だと一瞬顔を傾ける必要があるが、そのときに卓上から目を離してしまう恐れがある。朝倉はそれを嫌ったのである。また水をこぼしてしまったり、キャップの開け締めを考えてもストローを使った方が合理的だ。朝倉の行動はすべて勝ちに対してベクトルが向かっている。
南2局1本場
親の朝倉、2枚切れの東を残しドラのを切る。