寿人からアガっても、裏が乗らないと3着止まり。
一方でツモると確定でトップ。多井や滝沢は点棒状況的に押しづらいので、局は伸びてツモ確率もアップするだろう。
しかし…
それにしても…
この状況でこんな大胆な見逃しができる打ち手は…
この男より他にいないだろう。
前回の登板で、アガリ牌を見逃して瀬戸熊に四暗刻をツモられたのは記憶に新しい。
それにしても、この大舞台の、しかもデビュー戦で、たろうの大胆さまでもアウトプットしてくるとは末恐ろしい。
そうこうしているうちに三段目に入ってきた。
滝沢と多井は予定通りオリている。
寿人だけは向かってくるが、何があっても向かってくる状況なので速度は読めない。
ここまでは完全に想定通りだ。
そろそろツモれるか…!
がっだめっ…!!
なかなかツモれない!
そうこうしていううちに、寿人が仕掛けた。寿人がテンパイなら丸山は4着のままだ。
この選択はやりすぎだったのだろうか?
丸山の中で後悔の念が頭をもたげる。
そして、いよいよ丸山の最後のツモ番となった。
教えてくれた先輩達に報いたい。
選んでくれた越山監督に後悔させたくない。
応援してくれるファンを勇気づけたい。
女性でもこのトップクラスと言われる男性3人に勝てるということを見せたい。
お願い…いて…!
今、苦境の真っ只中にいるドリブンズへの最高の恩返しは…
結果だ!
「4000・8000は4200・8200」
丸山はどのような思いで倍満の申告をしたのだろう。
想像するだけで自然と涙が出てくる。
ドリブンズに選ばれてから、今夜までのスパルタの日々。
そして不安で眠れなかった前日の夜。
ドリブンズの願いがジャイアントキリングという形になって実現した。
ドリブンズの控室でも、おじさんたちが歓喜に湧き
抱き合って喜んだ。
もともと、実力至上主義であるドリブンズは、女性枠の義務化に反対していたらしい。
そしていざ女性枠が決まったときも、ほぼ新人である丸山奏子を選ぶことに対してメンバーは強い抵抗を感じたという。
しかし心から喜び合う4人を見ると
「伸びしろのある若手女流プロにドリブンズイズムを注ぎ込む」
という越山監督のプランは、多くの含みを持って身を結んだと言える。
今日の戦いを見るに、丸山は、「村上の手組み」「園田の仕掛け」そして「たろうの大胆さ」を、ほぼ完全にコピーしていた。
これがイメージの定着したベテラン女流プロだったら、自分のこれまでの打ち方を変えることは困難だったのかもしれない。
未成熟で伸びしろがある丸山奏子だったからこそ、先輩の意見を100%素直に受け入れ、そして努力するエネルギーもたくさんあったのだろう。
またそういった素直な打ち手に教えることで、3人も逆に学ぶことが多かったに違いない。
ドリブンズの3人は、抵抗があった当初からすると心情は変わったと思うし、今は丸山を完全にドリブンズの一員として認め、これからも4人は一丸となって伸びていくだろう。
ここまで見越して丸山を選んだとしたならば…
越山監督の先見の明は恐ろしいとすら感じる。
この半荘を見終わって、私はすぐに丸山の観戦記を書くことに決めた。