悪夢の王の一片よ
世界のいましめ解き放たれし
凍れる黒き虚無の刃よ
文・越野智紀【金曜担当ライター】2021年11月19日
Mリーグ2021(11/19第1試合)
「もう今シーズンは1勝も出来ないんじゃないか?」
これはプロ野球の先発投手から度々でる話しなんですが、シーズンの初勝利が付くまでは不安な気持ちが消えないと言います。
Mリーグ2021レギュラーシーズンを3割ほど消化して、まだトップを取れていない選手が残り4人。
各選手6試合前後しか打っていないので全然普通のことですし、そもそもMリーグはトップの回数を競っているわけでもありません。
まだ慌てる時間じゃないのはノートップの4選手とも頭では理解しているはずですが、それでも心のどこかには早くトップをとって安心したい気持ちが生まれてきているのではないでしょうか?
今回は特にこの事態を深刻に考えていそうな先発内川選手の話しです。
昨期個人2位の好成績でチームをファイナルに導いたサクラナイツのエースは、今期は個人MVPでチームを優勝させると意気込み臨みましたがスタートダッシュで大きく出遅れてしまいました。
手順マエストロと称される華麗な打ち回しも今のところは影を潜め、ここまでのアガリ率が32人中で最下位の9%と信じられない数字です。
過去5戦は防戦一方の展開に悩まされ、名手としての本領を発揮する機会が少なかった内川選手。
この試合もたろう選手の猛攻に苦戦を強いられていましたが、
南2局1本場にマエストロとしての技術を見せれる素材が久々に届きました。
アガリたいトップが取りたいという欲求が大きくなり過ぎると、つい直線的な手順を選んでしまいがちですが
2本の供託には囚われずにを落としてリャンシャンテン戻し。
「失敗したら御免なさい」
そう開き直って、自分の信じる手順で勝負に出ました。
タンヤオでソーズを仕掛ければ満貫以上の保障を得ながら速度も出せる好手順です。
を引き入れイーシャンテン。
誰もがアガリたい局面でのトイツ落としを見せると他家から警戒されそうですが、ここまで早ければ問題無しです。
それに警戒されても悪いことばかりではありません。
強烈なのトイツ落としを確認したたろう選手は内川選手の速度を警戒して、比較的安全そうなやを残しての先切りを選択。
2巡目の先切りの効果か、この残したで吸い込まれるように放銃する未来も充分にありえましたが
を自力で引き、たろう選手のは助かりました。
最高の作品完成へあと一歩まできた内川選手。
序盤ならリーチと行きたい手ですが、序盤・中盤・終盤の概念は巡目ではなく相手の進行によって変わってきます。
日向選手からドラのが余ってきていることから序盤は終わり、局面は中盤戦へと移行。
以外のツモなら倍満と打点が充分あることと、日向選手の河にあるに注目してダマテンにすると
この選択に展開も味方し、テンパイの入った瑞原選手からが出てタンヤオ・ピンフ・三色・ドラドラ赤赤で倍満のアガリ。
めでたしめでたし。
…で、物語は終わるはずでした。
供託2本あり、6巡目。
瑞原選手(リーチ率1位)の通常営業ならを切って場況がそこそこ良さそうなカン待ちでリーチときそうなものでしたが
まさかのテンパイ外しで切り。
試合後に「カン待ちの即リーチがいいかなと思っていたのに欲張りな心が出てテンパイ外しをした」と本人も反省の弁を述べていて、これはイレギュラーな選択でした。
この試合が行われた11月19日は瑞原選手の誕生日で、普段の試合よりもトップに対して執着を見せていたのかもしれません。
当たらない無筋しかプレゼントしてこないトップ目のたろう選手には期待せず、自らの手で誕生日を祝うために高い手を目指した瑞原選手。
結果的に倍満の放銃を神回避しました。
さらに日向選手からリーチが入って瑞原選手のが簡単には出ない展開になると
一発で日向選手のロン牌を掴んだ内川選手。
この世の終わりみたいな脚本に、控室で戦況を見つめていたチームメイトの堀選手も
「うわ、掴んだ最悪…」
と、項垂れかけましたが
「いやでも切りリーチがある!」
と、瞬時に助かる道に気がつきました。
時を同じくして卓内の内川選手も希望の道へと繋がる切りリーチを打ち、物語はクライマックスへと向かいます。