撃って撃たせぬサブマリン
ままならぬ水中戦で、
闇に潜んだ瑞原明奈の急襲
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年12月13日
12月13日。
大和証券Mリーグの第1試合、渋谷ABEMASからは多井隆晴が出場した。詳しくは書かないが、この日の多井には、どうしても勝ちたい理由があったはずだ。
しかし麻雀は4人でやるゲームであり、誰だってトップは欲しい。多井の思いは、三つ巴の戦いの中で潰えることとなった。
第1試合
東家:二階堂亜樹(EX風林火山)
南家:瑞原明奈(U-NEXT Pirates)
西家:多井隆晴(渋谷ABEMAS)
北家:岡田紗佳(KADOKAWAサクラナイツ)
多井の第1打に、やる気がみなぎっている。メンツが一つもないところからの切り。近年では第1打ダブ切りがある種推奨されているような傾向も見られるが、通常モードの多井であれば、もう少しまとまっていて親に鳴かれても真っ向やり合える手でない限り、ここからは選ばなかったはずだ。本人曰く、「トップを取りに行くときはから。鳴かれても分かりやすくなる」。
親の亜樹は、2巡目にダブを重ねた。他の形も良く、切られればおそらく鳴いただろう。多井の切りが第1打でなければ、この局は全く違った展開になっていた。
多井がリーチ一発ツモピンフドラ裏の3000-6000を決め、まずは大きくリードする。
だが、南1局2本場では瑞原がリーチ一発ツモタンヤオピンフ裏の3000-6000で失点を一気に回復。
南2局には、亜樹が瑞原との同じ待ちリーチ対決を引き勝って2000-4000。トップ争いは、三つ巴の様相を呈してきた。
南3局は、2巡目にして亜樹と瑞原の2人が決定打となり得る材料を手にした。
やや出遅れた多井は、チートイツに活路を見いだす。
故に切り。ここは目先の一役よりも、重なりやすさ、そしてアガリへの期待度で牌を残していく。もちろん、後のリスクに対するケアもあった。
最初のテンパイは亜樹だった。だが、引きは最もうれしくない牌。テンパイを取れば役がなくなる上に、ドラを使うにも少し手間がかかる。リーチのみ1300では、アガったとしても全く決定打にならない。
ゆえに、待ちには受けるもリーチはせず。ドラを引いてのスライド、あるいはソーズでの好形変化をにらむ。
続いて瑞原、こちらは文句なしのタンヤオピンフ赤赤テンパイ。3者が競りの状況において、満貫の価値はあまりに大きい。アガリを確実にものにするため、瑞原が闇に潜んで狙いを定めた。
多井は字牌3枚残しのチートイツ1シャンテン。自分で切っているも山にいそうな上、宣言牌になったときにはチートイツの読みをぼかす効果もある。そこに引いてきた、2枚目のは、競りの状況における自身のアガリの価値も考えれば、止めることはできなかった。もちろん、リーチならば止まった牌だろう。
瑞原の急襲に、表情をゆがめた多井。最終局は亜樹、多井がトップ狙いのリーチをかけるが不発、親の岡田もテンパイできず、瑞原が勝利。自身連勝を飾った。
この試合では各者共に、水の中で思うように動けないような、もどかしい局面があった。
多井は東3局、カン待ち、カン待ち、待ちを選べるなかからシャンポン待ちを選択。がドラな上、ソーズが場にほとんど切られていないことでのアガリが厳しそうだったこと、またを固めている相手からの出アガリが狙えると読んだか。だが、実際にはこの時点でドラは全て山にいた。
終盤にを引き戻してカン待ちに変えたが、直後にを引いてしまう間の悪さ。決してミスではないだろうし、仕掛けてダブ東のみのツモアガリの収入は流局1人テンパイと一緒だが、どうにもすっきりしない。
そして試合後に多井が悔いていたのが南2局、瑞原のリーチに対してここから現物を抜いてまわった場面。多井の頭には押し返す構想もあったそうで、押し返していれば待ちリーチで追い付き、瑞原からを捉えていた。そうなれば次局の満貫放銃も、全く違った進行になっていたはず。本人としては、かなり悔しい試合となってしまったようだった。
亜樹にとって悔しかったのは、のリャンカン形からのカン待ちリーチ。終盤でが自身の目から4枚見えているのにが場ゼロということで、は持たれていて山にないという読みだ。を切ってのカン待ちリーチでも宣言牌のスジで、おいそれと切られる牌でもない。
実際に、は岡田に暗刻だった。ただ、も瑞原に暗刻だった。そして亜樹の一発目のツモは、まさかのラス。読みが合っていたとしても、それが結果に結びつくとは限らないのが麻雀だ。
オーラスは満貫ツモで同点トップだったが、チームがポイントを持っている状況では2着OK、それよりも多井や岡田に逆転されるのだけは避けたいという思いから、後の重荷になるドラを第1打で切った。
だが、そのがかぶってしまう。この手は最終的にテンパイするのだが、リーチツモドラドラ赤のハネ満による逆転トップのルートもあり得ただけに、早めの見切りが裏目となってしまった。
そして苦しかったのが岡田だ。終始戦える手が入らないなかで、この試合唯一のチャンスと言えたのが、東4局、親番でのリーチピンフドラ赤。ここまでトップがなく、どうしてもこの手はものにしたい。