人は笑い、そして涙する。
文・小林正和【金曜担当ライター】2023年12月1日
34種類136枚の僅か30㎜角にも満たない樹脂製の物質。その限りある無機質な存在に人は魅了される。
子供から大人、アマチュアからプロ、町工場の社長さんから大手企業の代表取締役、一般人から芸能人…。年齢や性別、肩書き等はここでは意味を成さない。
人は未知なる1牌に一喜一憂し、それぞれ情緒溢れる無限のストーリーを見い出す。
師走の今宵。
茅森は何か大きな想いと一緒になって確かめるように裏ドラの行方を見守っていた。
第2回戦
東家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
南家:茅森早香(セガサミーフェニックス)
西家:本田朋広(TEAM RAIDEN / 雷電)
北家:仲林圭(U-NEXT Pirates)
上位2チームとポイント状況的に苦しい下位2チームとの二極化の対戦となった本日の対戦カード。
東場において、その1牌に踊らされたのは本田であった。
東1局
ロンでは1,300であったが、ここはツモと嬉しい1,300・2,600となった局。
高めのトイトイはもちろん、何が嬉しいのかと言うと“ツモアガリ”という点である。
相手との差を意識する事は、麻雀という対人競技性において大切な要素。
安め1,300の出アガリの場合、二人とはそのまま1,300のリードとなるが、放銃したもう一人とは倍の2,600分。これが高めツモの場合だと子とは6,500、親とは7,800との差が生まれる。たった1牌の差で3~5倍もの点数価値が違ってくるのだ。
更に本田は
東3局
親番で先制リーチを打つと、事なくしてツモアガリ。
裏ドラ牌には…
(…ドーン!)
が飛び跳ねるように顔を出し、手牌の暗刻であるがそっくりそのままドラ扱いへ。
リーチ・ツモ・タンヤオ・裏3の6,000オールである。
これも相対的に考えると全員とは24,000分を引き離す事になり、ミニマム出アガリ3,900と比べると点数価値は6倍以上だ。
幸先の良いスタートを切った本田は、手を緩める事なく攻めの姿勢を貫く。
東3局1本場
目がチカチカする程の眩い赤・赤・赤!
まるで勝利を祝福するかのような手格好も本田をリーチへと後押しする。ツモアガリの場合は最低でも6,000オール、一発・裏ドラ次第では8,000オールもあるだろう。
しかし、そんな普段通りの攻めっ気のある“やんちゃな”本田の独走を阻止したのは2連勝中の堀であった。
本田から高めのがツモ切られ、・ホンイツ・一気通貫8,000のアガリ。
これも1牌の後先。
MAX8,000オールで全員と32,000の差を付けられる所から、8,000放銃にリーチ棒を加味して18,000分の失点。上下差50,000点である。
要するに136枚ある有限の麻雀牌の内、たった1枚の牌の存在だけで景色が変わるのだ。人はその予知できない幻想に未来予想図を重ね、笑い、そして涙。
そんな今シーズン、どこよりもその涙の数が多いチームが存在する。
それは
“セガサミーフェニックス”だ。
背中の橙色に燃え輝く不死鳥を身に纏いながら、ここまで大きなマイナスを背負う苦しいチーム。
普段あまり表情に出さないにも関わらず、苦悶の顔つきからも今日の並ならぬ強い思いが画面越しから伝わってくるのではないか。
東場は放銃する事なく、時が来るのを羽を休ませながら待ち続ける茅森。
チャンスが舞い降りたのは南2局1本場であった。
下3人が競りの状況である点と、“親リーチ”という魔法の言葉を利用して圧をかけるのも効果的であったが、我慢のファーストテンパイ外し。
そして、浮き牌のにをくっ付けると