微笑みの裏に携えた冷静なるダマテンの刃
文・東川亮【金曜担当ライター】2024年4月12日
Mリーグは例年、ポストシーズンに入ると冠スポンサーが大和証券から朝日新聞へと変わる。より注目が集まる舞台において、求められるのはやはり、熱を帯びた戦い。わずか3日を消化した段階ではあるが、セミファイナルはここまで上位が負けて下位が勝ち、より緊迫した状況へと変化しつつある。
各チームの試合数が並び、第2クールを迎えた4月12日の第1試合には、まだトップのないU-NEXT Piratesを除く3チームがセミファイナルで勝っている3名を起用。おそらくローテーションによる偶然の組み合わせだろうが、短期決戦でチームに勢いを付けたい思惑も、わずかながら感じられる。
追い上げるか、それとも突き放すか。
第1試合
東家:仲林圭(U-NEXT Pirates)
西家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
序盤は流局2局から仲林が2000、2600と、仕掛けを使って小さなアガリを重ねる。
パイレーツはここまでトップがなく、レギュラーシーズンから持ち込んだ440超のプラスを100ほど溶かしている。これ以上負ければ一気に後続に飲み込まれかねず、ここで食い止めたい思いは強かったはずだ。だが、そう簡単に事は運ばない。
東4局は太がのポンから発進。門前で一気通貫の見える手だが、さすがに受け入れが限定的すぎるので、ここは打点よりもアガリを優先、局を進めるために前に出る。
を切ったのは亜樹だった。
手の内はこんな形。ドラドラ赤のチャンス手で親番、生牌の役牌とはいえ、ここで絞るようなことはしない。本人いわく「前回の対局で感じた勢いを殺さないように」という意識で試合に臨んでいたという。
テンパイ一番乗りは太。ポンの後にをリャンメンでチーしてドラ含みのターツ落とし、周りからもかなりテンパイに見えていそうだが、打点的な脅威はそれほど感じられない。特に、ドラ3枚を抱えた亜樹からはなおさらである。
遅れて亜樹もテンパイ、待ち。ここはテンパイ打牌のを縦に置き、リーチとは行かなかった。
このとき、亜樹は場に打たれやすいソーズ待ちならダマテンに、そうではないピンズ待ちになるならリーチを考えていたという。仕掛けを2つ入れて目立っている太はと手出ししており、直前にはも通過。ソーズでは亜樹の待ちであるは通っていないものの、もし残っているとするならチーの前に
という形からを切っていることになるが、ペンチャンターツより先に良い形をほぐしているということになり、違和感を覚える。その他のカンチャンやシャンポン形があったとしても不自然なところが残るため、は太に対して比較的安全で今ならかなり切られそう、という読みだった。
その選択がピタリとはまり、カンターツ払いの仲林からを出アガリ。おそらく太に対して切れると考えつつ、さすがの仲林も、ダマテンの亜樹まではケアし切れなかった。ピンフドラドラ赤、12000の直撃は大きいが、リーチしていたらここまですんなりアガれたかは分からない。
南1局1本場は各者の駆け引きが面白かった。
まずは太が、カンと仕掛けて手を進める。手の内はまだ整いきっているわけではないが、門前では苦しい受け入れが多く、積極的に動いて主導権を取りに出る。
仲林はとというピンズのドラが浮いているところにを引き、マンズの部分をスリムに。ピンズを1枚も切っていない太に対し、これ以上簡単に鳴かせたくないという意思のある進行。
を引いて、ピンズを切らずにドラ2枚を使いきれる形になった。こうなれば攻めたい。
だが先制は寿人、待ちでテンパイすれば迷うことなくリーチ。
亜樹はドラドラ赤を抱えた好形の1シャンテン、一発目につかんだは無スジだが手牌価値で押していく。
次巡にリャンメン待ちでテンパイ。押したのであれば、ここはリーチでぶつけて行く選択もあるように見えた。
だが、亜樹はを切ってのダマテンを選択。待ちのは場に4枚切れと、決して良い待ちとは言い切れない。現状トップ目で、ラス目のリーチに飛び込んで大怪我をしたくないという意図から、先の巡目でオリの選択を残す守備的な思考でダマテンに受けた。
もちろん、この手をリーチと行く打ち手もいるだろうし、亜樹を消極的だと思う人もいるかもしれない。ここで前掛かりになりすぎない、運不運に身を委ねないのが、二階堂亜樹のバランスということなのだろう。勝ちたい気持ちはありながら、頭はいたってクールだ。
その先は運の領域、寿人がすぐにをつかんで亜樹に8000は8300を放銃。
次局には決定打となる2000-4000のツモを決め、そのまま亜樹が逃げ切って自身のセミファイナル連勝を果たした。
風林火山はセミファイナルにマイナスポイントの5位で入ったもの、わずか5戦でプラスは3桁、2位まで浮上した。ポイントが半分になるセミファイナルは上位も安泰ではなく、下位にもチャンスがあるということを、数字で如実に示している。だが、裏を返せばそれは、現状の好位置など数戦でどうにでもなるということの表れでもある。だからこそ、1戦1戦の価値は非常に重い。
勝利に安堵し、微笑みを浮かべる亜樹。