東家・菅原のリーチ。
欲しいは河に1枚切れと、程よく絶好なのに…。堀からすれば、こんな千載一遇のチャンスの時に限って勘弁してくれよ……という気持ちだろう。しかし、こればかりは受け入れるしかない。
それよりも…
(まだ出ないでくれよ!)
今はノーテン。しかし、ある意味では既にテンパイしているかのような感覚で、危険牌を切り飛ばし続ける。そんな、一見すると矛盾した思考を巡らせながら遂に、その瞬間が訪れた。

ツモ
国士無双テンパイ待ちである。
それも、テンパイするまでは切られてはいない。堀の脳内を駆け巡るアドレナリン。今や願いはただ一つ“場に放たれること”
(出ろ!
出ろ!!)
へと頭の中の台詞は変わっていく。

起用してくれた監督や、気持ちよく送り出してくれたチームメイト・スタッフ・サポーターの顔を思い浮かべながら。
だが、実況・解説席のテンションは、堀の願いとは真逆であった。
実況・日吉
「テンパイしちゃダメだぁ!!」
解説・村上
「サクラナイツ・ファンも寂しくなっちゃうもんね。」
目の前で起きている現象と、飛び交うコメントのギャップ──まさに”パラドックス現象”。
しかし、その言葉の正しさは直ぐに証明されることとなる。その真相がこちら。

菅原
「ロンっ!4,800は5,100。」
流れるような点数申告に、一瞬見落としてそうになった方もいるかもしれないが、お気付きになっただろうか。
手牌中央、やや左側に並ぶ丸の模様の塊を。そうの暗刻である。
つまりリーチの瞬間、菅原からは堀の国士無双成就は完全に閉ざされたということを意味していたのだ。

“清純派黒魔術師” 菅原千瑛。
耳元に白く輝くリボン型の耳飾りも、堀にとっては黒い魔女の“封印のお札”に映ったことだろう。

予想外の四局連続失点により、早くも一万点台を割り込んだ堀。
実況・日吉
「でも、堀さんはオーラスを迎える頃には二万点前半くらいにはなってますよ。きっと!」
もし、これがレギュラーシーズンの序盤や中盤なら、日吉のフォローも冗談交じりに受け入れられただろう。しかし、今は大事な大事な終盤戦。この展開に、サクラナイツ・ファンもただ黙って見守るしかなかった。
一方で、順調にポイントを伸ばしていた菅原。しかし、その流れに変化がおとずれたのは東4局3本場──。
そのキッカケとなったのは、ここまでチャンスらしい場面に恵まれなかった松ヶ瀬の何気ない選択から。

ここからをツモ切った!

イーシャンテンをキープするなら、打牌候補は・
・
の3択。一人麻雀なら、自身で
を切っている点と、一気通貫の可能性を残せる
が自然な選択肢となるだろう。
しかし、巡目はそろそろ三段目に差し掛かる頃合い。慎重な判断が求められる局面となっている。安全度も考慮したい。
そうなると、注目すべき対局者の筆頭は、何といっても西家・寿人。その理由は、ドラ表を含む中張牌やをバラ切りしている点にある。それならば、
待ちの可能性が低いことを逆手に取り、
を残す選択も十分考えられる。結果として、タンヤオが付かない
切りが本線となりそうだったが…

松ヶ瀬がを切れば、自身にドラが無い点、巡目や供託を考慮して、恐らく寿人からチーの声がかかっていたはずだ。そして次巡、
が菅原に流れ、そのまま出アガリで決着していただろう。
後の引きや、余計な情報を出さないメリットを考慮すると、ここで
を選んだのは意図的な判断だったと言えよう。チャンタ系やトイトイ系のケア。それは“繊細なる超巨砲”の異名に相応しい、まさに松ヶ瀬らしい一打であった。
しかし、このファインプレーを掻い潜って

寿人がメンゼン・テンパイを果たす。もちろん、気づいた時には、既に牌は横に曲げられていた。
そして、この局の結末を託されたのは、先ほどまで軽快にトップへの道を駆け上がっていた菅原。その“ビースト・ロード”は、ここで試練の時を迎えることとなる。

松ヶ瀬が切らなかったがやって来た!テンパイである。

そして、菅原の手が止まった瞬間、トレードマークの“困り顔”が静かに浮かび上がった。

その時の盤面がこちら。皆さんは何を選択しますか!?
獣のように攻めるなら!?
① ②
辺りでしょうか。
【切り】
➡︎ツモった場合、三暗刻が必ず付き満貫以上が確定
➡︎出アガリの場合、最低1,600と打点減少
➡︎待ち枚数最大3枚