「やったりますわ!」
シンプルながら、力強いひと言だ。
■D卓
歴代最強位代表 藤田晋
雀王 堀慎吾
アース製薬杯男子プレミアトーナメント代表 岩﨑真
鳳凰位 吉田直
予選を勝ち上がり、2年連続でファイナルの舞台に勝ち上がった岩﨑プロ。
彼の中では、2年連続でたどり着いた喜びよりも、リベンジの気持ちが強かったようだ。
「昨年、ファイナル1回戦で悔いが残る打牌をしてしまって、悔しい思いをしたました。どんな結果になったとしても、悔いの残らないような麻雀だけを打ちたいと思っています。去年とは違う景色が見たいですね」
話を聞いていたときは爽やかな笑顔だったが、試合が近づくにつれ、徐々に緊張感を帯びた顔つきになっていく。
ファイナルの組み合わせで、
「対戦したい相手は、この中にはいない」
と言い放って物議を醸した、雀王・堀プロ。
これは誤解で、他の卓に戦いたかった人がいたのだという。
「鈴木大介さん。僕は、プロ棋士の方をすごくリスペクトしています。天才の集まりなんだろうなというのを昔から思っていて、僕らは麻雀しかできないわけじゃないですか。1回勝負なんで分からないですけど、だからこそ絶対負けられないという気持ちが強いです」
その鈴木大介さんは、一足先に決勝へと勝ち上がっている。
憧れの相手との戦いへ、ここで負けるわけにはいかない。
堀プロと同様、自団体最高峰のタイトルを獲得してファイナルに出場する、吉田プロ。
日本プロ麻雀連盟という業界最大の団体を背負う彼は、頭に鳳凰をあしらって会場に現れた。
「これは『鳳凰位』を背負って戦うぞ、っていう意気込みです。最強位は、鳳凰位の次に獲りたいタイトル。今日は死ぬ気で頑張ります」
大柄で強面な風貌、そして奇抜な髪型にやや身構えていたが、打って変わって非常に柔和な人物で、筆者の心配は杞憂に終わった。
ちなみに、吉田プロ・堀プロ共に、「鳳凰位対雀王」という構図についての質問を投げかけてみたが、どちらもそういう意識は特になかったようだ。
相手よりも自分、ということか。
そして、この日出場する16人の中でもピカイチに注目度が高いであろう、藤田社長。
最強位への思い入れは
「もちろんある」
としながら、
「そろそろ自分で出るのはやめようと思っていたんですけど、これに勝っちゃったらどうしよう」
と、複雑な心境を語ってくれた。
しかし、この人が卓に座れば、誰よりも勝利に貪欲になるのは多くの人が知るとおり。
「応援されているのは感じているので、期待に応えたいですね」
最強社長の戦いが、いよいよ見られる。
この日は非常に多くのコメントを取ったのだが(音声ファイルは全部で39個あった)、一番印象的で、一番聞き返すのが辛かったのが、自らの試合を
「情けないのひと言です」
と断じた、岩﨑プロの試合後のコメントだった。
「東発から好配牌をもらっておいて勢いに乗れなかったというのもあるし、途中、本当にいろいろなところで選択ミスが多かったかなというのがあって。もう本当に、一局一局に反省点があって、ちょっと情けないな、という感じです」
ひと言ひと言を、苦虫をかみつぶすかのように絞り出す様から、悔しさが痛いほど伝わってくる。
ただ、だからこそまた強くなれる余地があるのではないかと思う。
きっと彼は、この経験を自分のものにしてくれるはずだ。
「見せ場は髪型だけになってしまったな、と」
吉田プロのコメントは、そんな自嘲から始まった。
もちろん、見所はあった。
絶望的な状況から四暗刻テンパイまで持っていき、見逃してツモにかけた姿は、「背負っている」男のものだった。
また、四暗刻リーチが空振った後は、あくまで条件を満たすことは諦めないながら、堀プロ、藤田社長の邪魔をしないように打ち回していた。
「負け方もかっこよくというので、自分の美学は貫いたかなと思います」
鳳凰位は、最後まで気高かった。
あわや逆転、というところまで堀プロを追い詰めた藤田社長は、
「見せ場は作れたので、良かったと思います」
と試合を振り返った。
5年前の最強戦、そして自ら立ち上げたRTDリーグで並み居る強豪プロと互角以上にわたりあった姿を再確認できたことで、胸が熱くなるファンも多かったのではないだろうか。
「こうなったら、堀さんに優勝してほしいですね」
そう言って、藤田社長は会場を去って行った。
D卓終了後、決勝卓のはじまりまではタイトなスケジュールが組まれている。
特にD卓を戦った堀プロに関しては、一服を入れるくらいの時間しかなかった。
休息を終えて決戦場に向かう堀を捕まえ、話を聞く。
「藤田さんが強すぎて、勝った気がしないですね」