マムシの麻雀は硬軟自在
沢崎誠の技術を生かす大局観
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年12月9日
大和証券Mリーグ、12月9日の対戦は、中位から下位に位置する4チームの組み合わせとなった。レギュラーシーズンは中盤戦を迎え、各チームともある程度目標はハッキリしてきている。サクラナイツとABEMASは2チームを追撃していきたいし、フェニックスはプラス域浮上、そして雷電はとにかく少しでもマイナスを減らしたい。
初戦は雷電の黒沢咲がトップ。一気に連勝といきたいところだったが、そこに立ちはだかったのが、「マムシ」こと沢崎誠だった。
第2回戦
東家:本田朋広(TEAM雷電)
南家:沢崎誠(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:白鳥翔(渋谷ABEMAS)
北家:茅森早香(セガサミーフェニックス)
東2局、沢崎は茅森とのリーチ対決を制し、リーチ一発タンヤオドラドラの12000を出アガリ。まずはこの試合をリードする。
東3局には茅森から3900を出アガリしてさらに加点。そして決定打となったのが東4局2本場、2番手の白鳥から直撃を取ったリーチチートイツドラドラの8000は8600だった。
この試合、白鳥は総じて手が悪く、それでいて粘ろうとすると当たり牌が出ていきそうになるという、非常に苦しい展開だった。それでも数々の難局をしのいで3着でこの試合を終えるだが、唯一の放銃となったのがこの場面だった。
沢崎の捨て牌は1打目からとリャンカン形を払い、中張牌をバラ切りしてリーチをかけている。普通の手をやっていそうな捨て牌ではなく、変則手が予測できる形だ。もちろん、それは白鳥とて認識していたはずである。
この場面について、サクラナイツの内川幸太郎が控え室で興味深い解説をしていた。ポイントは、4巡目の切りだ。
沢崎の手が変則手、チートイツだとすれば、手の内には重なりやすい牌を残したいはずだ。それを踏まえて河を見ると、茅森・本田の2人が3巡目にを切っており、はまだ山に残っていそうに思える牌。しかし、沢崎はを先に切り、切りリーチをかけた。
─チートイツであれば有効そうなを先に切り、が後から出てきた
─だったら、チートイツではないのか? リーチ宣言牌周りが危ないのか?
白鳥は、手の内にある1枚切れの字牌すら切るのに躊躇していた。だが、沢崎
の手をチートイツと読むほど、先切りに違和感がある。結果、白鳥はに手をかけた。
を切るのもかなり逡巡していたが・・・
最後は放銃。内川の解説通りなら、相手の読みが優れていることを逆手にとった沢崎が一枚上手だったと言えるだろう。
南1局、親の本田がリーチをかける。
それに対し、一つしかけてタンヤオドラ赤でテンパイしていた白鳥が、リーチ宣言牌の隣の無スジをツモ切った。
これを受けての沢崎。白鳥も危ないと読んでオリるなら、白鳥が通した、あるいは2枚見えでほとんど当たらなさそうななどが切れる。
沢崎はを切った。リーチの現物だが、白鳥には全く通っていない。
これを白鳥がロン、3900をアガり、本田の親が落ちた。
沢崎はこのについて試合後に「動かれてもしょうがないし、当たっても2000から3900、どうせ安いと思っていた」と語っている。たとえ放銃したとしても、安い失点で本田の親リーチを蹴って局を流せるならばOK。いわゆる「通行料」というヤツだ。本人は「満貫と言われたら熱を出す」とジョーク気味に語っていたが、満貫だったらそれはそれ、何とでもやりようはあるとも思っていそうである。
試合は進んで南4局1本場、沢崎は2番手と2万点近い差のあるトップ目。仕掛けは本田のチー、茅森のポンが入っている。局の終盤、3メンチャンのピンフテンパイが入った。ただし、出ていくはドラ、しかも生牌である。
沢崎はドラを切った。終盤の生牌ドラは、満貫のロン牌になっているケースすら考えられる牌である。
このとき、沢崎は目先の危険度だけで牌を打ったのではなかった。点差を見れば、白鳥・本田に対しては満貫どころかハネ満を打ってもトップで試合を終えられる。親の茅森に放銃すれば最低5800、12000や18000と言われる恐れすらあるが、茅森に都合良くドラが当たる可能性が果たしてどれほどあるのか。そして、満貫程度の放銃であればいったんはまくられるものの、厳しくはない逆転条件が次局に残る。
そうしたもしもの放銃後のことまでを考えて、ドラを押すべき局面と判断したのだ。さらに、沢崎はこのとき「茅森がテンパイしていないと思っていた」という。
実際、茅森は1シャンテン、直後に待ちのドラ単騎に手が変わっていた。まさに一手違い。最後は着順アップに向けてオリられない本田からを仕留め、トップを獲得した。
この試合は、茅森のリーチ攻撃、そこに立ち向かう本田、厳しい手牌ながらも失点をギリギリで回避する白鳥と、各者に見どころがあった。だが、それらの戦い全てが沢崎の手のひらの上だったという錯覚すら覚えそうな、大局観、鋭い読みに基づく老獪な打ち回しが印象に残った一戦だった。
これで沢崎は、個人成績単独4位に浮上。2019シーズンを席巻した「マムシの沢崎」は、今シーズンもますます暴れてくれそうだ。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。