「魔神」渋川難波
前年度王者の望みを刈り取る冷徹な一打
文・東川亮【代打ライター】2024年4月29日
朝日新聞Mリーグ2023-24セミファイナルも最終週を迎え、4月29日の第1試合は、4位・KADOKAWAサクラナイツと5位・渋谷ABEMASによる今ステージ最後の直接対決となった。
サクラナイツとしては突き放す、あるいは現状維持で1日を消化できればセミファイナル突破の可能性が極めて高くなり、一方で最終日に試合のないABEMASとしては、何としてもここでサクラナイツを捉えて条件を突きつけたい。
ファイナル進出率100パーセント、前年度王者であるABEMASにとどめを刺すべく初戦に送り出されたのは、「魔神」渋川難波。彼は「今やるべきこと」を十分に理解している。
第1試合
西家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)
北家:伊達朱里紗(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
東2局。
親番の勝又がピンズ多めの手牌からをポンしてホンイツに向かう。ここでとあるソーズをから切っていったのが細かな工夫。ホンイツに向かうだけなら危険なから切っていくのがセオリーだが、切り順を→とすることで、相手からはタンヤオ移行に見てもらえる可能性がある。そうしてでのアガリ率を上げようという狙いだ。
その後、勝又は立て続けにを引いて首尾良くでアガれるテンパイに。
ただ、引きで待ちになれば、さすがにアガリやすさで待ち変え。
このを多井がつかんでしまう。多井としては、トップは絶対条件。目いっぱいにアガリを狙う状況で、止まりようがなかった。
ホンイツドラ赤、12000。多井にとっては痛恨で、もちろんアガった勝又はうれしい。そして渋川にとっても、目下のライバルであるABEMAS・多井が沈んだことは大きい。
そして、ここから試合はめまぐるしく動く。
東2局1本場は伊達と渋川がリーチでぶつかり、伊達が3900を渋川から出アガリ。
東3局は伊達のリーチの現物待ちになっていた渋川が多井から2900を出アガリ。
東3局1本場では逆に、先制リーチの多井が渋川から一発で出アガリして5200は5500。互いに譲らない戦いが続く。
そうした中で南1局、渋川の姿勢がハッキリと見えた。
この局は勝又がわずか5巡で先制リーチをかける。このリーチは、渋川にとっても歓迎すべきもの。トップは遠のくが、それ以上に多井の最後の親番が落ちることで、多井のトップ率が大きく下がるからだ。
もちろん多井も、この親番を簡単に落とせないことは分かっている。何とか粘ってテンパイを取ろうとするが、欲しい牌はほぼ山に残っていない状況。
そこに、渋川がを出来メンツからチーした。手を進める仕掛けではないのは明らか、これには勝又のアガリをアシストする狙いがあった。この局は多井がを暗槓しているだけで他に仕掛けはないので、ハイテイ手番は多井。それを一つずらすことで勝又にツモ番を与え、あわよくばツモってもらえれば、ということだ。
自分が勝つことだけを考えれば、トップ目のリーチ者のアガリなど歓迎できるものではない。だが今の渋川、そしてサクラナイツには、それ以上に優先すべきものがある。
勝又はツモれず流局し、多井の手牌が伏せられる。渋川にとって、この局の結末としては最高に近い。
多井は、ABEMASは、いよいよ厳しくなった。だが、もちろん諦めるわけにはいかない。
渋川としては、自分がアガって加点すれば、多井がますます苦しくなることが分かっている。そこに、仕掛けを使えるおあつらえ向きの手。チートイツの1シャンテンからをポンして2シャンテンに戻すが、鳴いて手を進められる分、こちらのほうがフットワークが軽くなる。そして打点的にもチートイツより役役ホンイツあるいはトイトイの満貫のほうが高い。
西も鳴けて、切りでホンイツへ。トイトイよりはこちらのほうが手牌も変化させやすく、チーも使える。
手牌がリャンメンに変化したところで多井からを鳴けてテンパイ。
ただ、ソーズのホンイツが濃厚な渋川にソーズを被せた多井が、つまらない手のはずがない。何とかたどり着いたリーチはペン待ちと決してよくはないものの、赤ドラ内蔵でツモれば満貫スタート。勝又に鳴かれているがも切っていて、スジになっている。
渋川は躊躇なく無スジを切り飛ばしていき、迎撃モード。やるか、やられるか。個人の意地だけでなく、チームの命運も懸かったぶつかり合い。
決着は、すぐについた。それが、決定打だった。
5200は5500の直撃。多井からの直撃は、ABEMASに引導を渡しうる一撃だった。