素早いアガリ点申告は当然
放銃点も予測すべし
前回、エロちゃんという記憶力のすごくいい麻雀打ちを紹介しました。
点数表示器が無かった時代に、相手の点数を最後まで完全に暗記していた若い男性です。
現在進行中のそれぞれの持ち点だけでなく、途中誰かがアガった点数まで覚えているというバイオメモリ。
「山ちゃんは今29500持ちだよ。東パツでマンガンをアガった後、親番で13・26引かれて、それから…」
とかね。
ぼくなんか、東風戦の記憶も怪しいのに。
もちろん今でもそういう打ち手はいますが、たいていは点数表示器に頼っている。
毎日お客さんの麻雀を見てますが、表示器を活用しない人はほとんどいない。
エロちゃんのこの才能には、周りの誰もが敬意を払い、時には勝負の道を明ける(譲る)ことさえありました。
エロちゃんが仕掛けたり、リーチをかけたりすると、
「キッチリをトップに照準を合わせて来た」
「放銃するとこちらがラスに転落してしまう」
と感じさせるんです。
本人は意図していなかったかもしれませんが、結果的にはポーカーのブラフ(ハッタリ)のような役目を果たし、かなり有利に戦っていたのではと思います。
エロちゃんは、放銃した時の点数の支払いも格段に速かった。 当時は、まだ赤牌が導入されていない時代なので、今よりも多少は得点が読みやすかったのかもしれません。
ドラの色でないホンイツ仕掛けにファン牌を勝負する時は、5200点覚悟、などですね。
現在のようにすべての色に赤牌が導入されていると、マンガン覚悟になります。
最近たぬの女性クルーが、3フーロのホンイツを放銃した時のこと。
「ロン、8000点」
ことろが彼女卓上に出したのは1000点棒。
どうやら1000点と聞き間違えたようですが、ホンイツは2000点以上なので、まだまだ精進不足です。
現在の攻撃手はリーチとホンイツが主流。
●ホンイツなら5200以上。
●リーチならほぼマンガンを覚悟しましょう。
●東パツに親のダマテンに放銃したら、7700点以上。
ピンフ形の2900点や5800点はめったにない。
「ロン、タンピン…」
などとピンフという単語が聞こえたら、たいていはマンガンなのだ。
エロちゃんは各自の持ち点だけでなく、点棒の種類まで把握しておりました。
当時は500点棒がまだ無くて100点棒10本の時代。
「山ちゃん、両替して」
「あるかなあ…」
●両替を頼む先が的確なのもカッコ良かったです。
ソロバンの名手は、頭の中に架空のソロバンを置いているそうですが、エロちゃんは点棒箱を置いていたのかも。
当時エロちゃんは、日本プロ麻雀連盟に所属する前の、安藤満プロと高レートを打つこともあったようで、少なくともぼくが打っていた雀荘ではトップクラスの打ち手でした。
ギャンブルはもちろん
ビジネスに絶対は無い
ぼくがエロちゃんに感心したのは、半分雀荘のメンバーで、半分雀ゴロのような生活をしてても、お金のケジメがしっかりしていた点。
自分が借金するようなことはもちろん無いんですが、他人にお金を貸すこともしない。
「○○さん、今のラスでパンクでしょ。見せ金してくれないと俺は抜けるよ」
なんと他人のフトコロ具合まで把握してたのだ、
しかし、これくらい優秀な打ち手でも、短期間の勝負の結果は分からない。
点差を把握し、キッチリと帳尻を合わせる手でテンパイしたとしても、それがアガれるとは限らない。
ワキから闘争心に富むライバルが参戦することもあるし、防御の甘い第三者が突っ込んで来て、ライバルにアガられることだって珍しくない。
技術力や情報力にたとえ大きな差があったとしても、勝負の結果はそのとうりにならないのがあたりまえ。
トップ率30%くらいのように見えました。
だからこそ、麻雀はゲームとしてもギャンブルとしても格段におもしろいのだ。
実は、ギャンブルだけでなく、一見確実そうに見えるビジネスの世界も似たような傾向にあるそうです。
ぼくも所属している「ギャンブリング&ゲーミング学会」の代表である、大阪商業大学の谷岡一郎学長は、「ビジネスに生かすギャンブルの鉄則」(日本経済新聞社)の中で次のように述べている。
「ビジネスはギャンブルと同じく偶然が支配する世界であって、必然などかけらもない世界だ」
「努力する者は必ず報われるとは言うのは、幻想にすぎない」
かなり過激な主張のように感じますが、自分で商売をやっているぼくにも、確かに思い当たるフシはある。
ぼくはこれまでに10軒くらいの店舗を出してますが、現在残っているのは4店舗で、生存率は半分以下。
しかも赤字の店もかかえて青息吐息。
ツブれた店のどこがいけなかったのかは、実はハッキリ分からないんです。
倒産した店も生き残っているのも、ほとんどが偶然の産物かもしれないと思うと恐ろしい。
もちろん谷岡教授は、
「偶然のウェイトが大きいので努力してムダ」
と言ってるのではない。
「人知を尽くして、天命にゆだねる」
ということなのだ。
「上場企業の平均寿命は30年」
若いことにこんな話しを聞いたことがあります。
現在では、新興市場の登場もあって、平均寿命は10年くらいだとか。
優秀な頭脳と大きな資本が結集した上場企業ですら、この程度の生存率だとしたら、ぼくの店のような零細企業の生存率など、カゲロウ程度かもしれません。
ましてやギャンブラーの長期生存率は低い。でも、それにチャレンジするからシビれるんです。
以下、谷岡教授のお言葉。
●若いころからギャンブルを通じて資本主義を学ぶべし。
●結果よりも知的なプロセスを楽しめ。
●チャレンジせよ。
●自分のケツは自分で拭け。
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2011年5月1日号)
●西原理恵子公式HP「鳥頭の城」⇒ http://www.toriatama.net/
●山崎一夫のブログ・twitter・Facebook・HPは「麻雀たぬ」共通です。⇒ http://mj-tanu.com/