そして本田テンパイの場面に戻る。本田は即リーチといかず、何事かを考えている。
少考の後、本田はイーペーコーを消す切りでリーチをかけた。は小林のリーチ宣言牌、もそのスジになる牌だが、場にマンズの下が全く出ていないことから、からの切りリーチというケースを警戒したのだろう。どちらでリーチをしてもツモればハネ満から、そしてなにより、この手は絶対にアガりたい。
本田がリーチをかけた時点で、二人の待ちのはなんと山に6枚残っていた。決着は必至、そして勝ったのは小林だった。リーチツモピンフリャンペーコー、裏裏で4000-8000は4100-8100。両者の明暗は、くっきりと分かれた。
小林は南1局に一気通貫ドラ1の5200を沢崎からアガり、本田の親番を流す。
南2局2本場には、沢崎のリーチに追っかけた本田の宣言牌を単騎で捉え、1000は1600。反撃をしたい本田の希望を、マシーンのように冷静に、冷徹に潰していく。小林は、この試合を2着で終えた。
沢崎誠:地の底より現れ、地の底へ叩き落とさんとするマムシ
南4局1本場、トップがほしかった本田だが、もはやそれは不可能に近い点差となった。手牌もしっくりこないが、それでもタンヤオチートイツを狙って手を進める。リーチタンヤオチートイツ裏裏のハネ満を小林から直撃すれば逆転2着、可能性はゼロではない。
だが、親番は沢崎誠。もしかしたらMリーガー32名のなかで、最もラス親を恐れられているかもしれない打ち手である。
気合いの入った「リーチ!」の発声。ラス親に打ちたくないのは当然、しかも相手が沢崎となればなおさらだ。
タンヤオチートイツに向かっていた本田が、沢崎のロン牌をつかむ。自分の都合だけなら、切り飛ばしたい牌ではある。
しかし、本田はを抜いた。ここで放銃してしまえば、3着すら危うくなる。本田はじっと我慢し、次局以降のチャンスに懸けた。
この局はアガリトップのたろうもテンパイしていたが守備にまわり、沢崎がツモって1300は1400オール。
次局も沢崎がリーチ。カン待ちなのだが、切りでのモロ引っかけでは3枚見えでが読みスジに入ると考えて、あえてを宣言牌としたところが心憎い。このリーチに3者が立ち向かえず、一人テンパイで流局連荘。
本田と沢崎が同点で並んだ。もしも本田が沢崎に逆転され、4着に引きずり落とされてしまえば、雷電のマイナスは900を越える。
本田朋広:諦めではなく未来のために1000点をアガったプリンス
南4局3本場、本田の配牌には發が暗刻。メンツもターツもあり、アガるだけならかなりどうにかなりそうだ。ただし、打点は全く見えない。
打点を作るなら残しておきたいもツモ切る。この局のテーマは、とにかくアガること。もはや悠長に構えている余裕などない。
沢崎の切ったをチーしてテンパイ。
それを見た沢崎もカンをチーして速度を合わせに行くが・・・
本田が小林のにロンの声。
1000は1900。「役満プリンス」と呼ばれる男の、この試合唯一のアガリだった。
ドリブンズが勝ってセミファイナルボーダーはさらに上昇、雷電が勝ち上がるためにはおそらく、残り試合の半分以上でトップが必要となる。それを考えれば、ラス回避ができたとはいえ、3着も受け入れがたい結果であることには変わりないだろう。
現状を踏まえて客観的に考えれば、雷電のセミファイナル進出は絶望的だと言わざるを得ない。だが、ときに理屈を越えた何かが起きるのが麻雀であり、それを起こすのがTEAM雷電ではないのか。出資してくれる企業、そして応援してくれるファンのためにも、諦めることは許されない。本田がつないだ1000点がただの悪あがきにすぎないのか、逆襲の種火となるのかは、今後の戦いにかかっている。
下を向くな、不敵に笑え。
そして、「面白い麻雀」で大逆襲を見せてくれ。
それが成せるならば、Mリーグはきっと、もっともっと面白くなる。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。