今もまだ道の途中
伊達朱里紗の進化論
文・東川亮【代打ライター】2022年12月5日
どんな世界であっても、現状維持はいずれ停滞、後退へとつながる。だから常に、成長への歩みを止めてはいけない。第一線で戦う人たちには特にあてはまることだろうし、それはMリーガーとて例外ではない。
成長という意味では、若い選手にはたくさんの伸び代が残されている。ただ、それを伸ばしていくためには、トライアンドエラーが必須。KONAMI麻雀格闘倶楽部・伊達朱里紗はMリーグの舞台で大ブレイクした打ち手だが、それでもなお、成長への意欲が失われることはない。
第2試合
東家:東城りお(セガサミーフェニックス)
南家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
北家:伊達朱里紗(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
東1局、伊達はカン待ちでテンパイ。タンヤオで役もあるので、いったんはダマテンに構える。
いろいろな変化があったが、最もうれしいのはこの引きだろう。待ちが良くなり、ピンフに高目だと三色もつく理想的な形でリーチし、
もはや当然のように高目でツモって3000-6000。いきなり大きなリードを作る。
攻めに出るときの伊達はこのように、強引な仕掛けや押さえつけリーチをせず、可能性のある手を素直に伸ばして最高形まで育て上げる、というイメージがある。
東3局ではがトイツの配牌で、すぐに松本から切られたがスルー。2番手・松本の親を蹴る意味は小さくない局面だが、を鳴いたらだいたい1000点で終わる手で、守備力は大幅に下がり、アガリも特別近くなるわけではない。
一方で、南1局1本場、5巡目に出たは1鳴き。今回は打点も赤ドラで3900あり、トップ目の南場で局を進める意味が東場よりも大きく、先ほど同様メンツはないが、リャンメンターツが3つあって形はある程度まとまっている。役牌をどこから仕掛けるかは人によって意見が分かれるが、伊達はこのバランスで打っている、ということだろう。
さらに2つ鳴いて、最後は自力でツモって1000-2000は1100-2100。1つずつ局を進めていく。
そんな伊達は、南2局では2巡目でを鳴いた。これも人によっては当然の鳴きかもしれないが、伊達がやるのは少々意外に思えた。特別早いわけでもなし、現状では仕掛けて2000点の手である。
この局は松本との仕掛け合戦となるも、伊達が制して2000。ここも仕掛けから押し切ってアガリを取り、さらに1局消化した。
そして南3局、またも役牌がトイツで入っていた伊達は、なんと1巡目から鳴いた。今までで一番早く、そして今までで一番悪い形からの仕掛けである。
手の内は分からない。しかし、親番の松本としては、トップ目伊達の役牌1鳴きは歓迎できるものではない。1巡目にして、この後は自分の手だけでなく伊達のケアも求められるようになるからだ。
さらに、形の整ってきた松本がドラを切ると、
東城がポン。役はの後付けかタンヤオ、もしくはトイトイといったところでまだまだ苦しいが、それでも満貫がハッキリと見えるだけに、こちらも無視はできない。
伊達は字牌を抱える安全進行。仕掛けはしたものの、しゃにむにアガリに向かうわけではない。
伊達の気配を察知したか、松本はアガリの見えそうな1シャンテンから手を崩した。松本としては、東城に満貫でも打ち込もうものなら、トップはおろかラスまで見えてきてしまう。
東城もテンパイできず、この局は全員ノーテンで流局。1巡目から場を動かした伊達としては、もちろん自分のアガリも考えていたはずだが、これはこれで一つ理想的な結果ではある。
迎えたオーラス。伊達は流局すればノーテンを宣言してトップを確保できる。守備的に構える選択もあっただろうが、ここは真っすぐ手を組んだ。松本はもちろん、渋川も大きな手を作れば逆転を狙えるという状況。手が入っているなら、加点して他を突き放す。
先制テンパイ、カン待ち。タンヤオドラ1で、出アガリ3900で松本の満貫出アガリ条件が消え、ツモって2000オールなら松本の満貫ツモ、渋川のハネ満ツモ条件も消せる。
そこへ、渋川がリーチ。高目三色となるドラツモならハネ満確定で逆転トップ。この時点でが3枚、が2枚あった。
伊達の待ちは渋川の現物だが、さすがに形が悪い。放銃しては元も子もないので、ここは撤退。
渋川ツモ。全員がオリているなら安目はツモらず高目ツモでの逆転に懸ける選択も視野に入れていたそうだ。だが、松本が切りに不穏なものを感じ、ツモアガリを宣言。それでも裏ドラ1枚が乗れば逆転で2位浮上だったが・・・。
乗らず。松本が2位、そして伊達がトップで試合は終了した。
伊達は試合後のインタビューで、この日多用した早い仕掛けについて「挑戦してみました」「難しいですね」と笑顔で語った。もちろんそれはなんとなくではなく、点数状況などを踏まえての判断ではあるのだが、Mリーグという大舞台・本番をこともなげに挑戦の場とできるところに、Mリーグで残した実績や自信はあるにせよ、伊達朱里紗という人物の、肝の太さを感じる。