昨年の麻雀最強戦でも香川の麻雀を見たが、基本的には守備的に構えてチャンスで前に出るスタンスを徹底する堅実な打ち手だと認識している。しかしこの試合では瀬川のダマテン急襲によってビハインドを背負ったことで、前に出ざるを得ない状況になってしまった。南2局では瀬川のリーチに一発放銃となってしまったが、現物がなく、親番を落とせば逆転が厳しくなるだけに、致し方ないところではある。
対局後、悔しそうな様子を隠さなかった二人。それだけ、この舞台に懸ける思いも強かったことが伝わってくる。悔しさを張らせるのは同じ最強戦の舞台のみ。ぜひ、来年もチャレンジしていただければと思う。
決勝の組み合わせは、こうちゃん・須貝・瀬川・福本に決まった。最強戦でしか見られないであろう異質の邂逅、そして対決である。
■決勝卓:リーチで走る若き須貝、追う者の意地はオーラスに実るか
東1局、瀬川がピンフ一気通貫でリーチ、満貫確定でアガれば大きなアドバンテージになるが、決まらずに流局。
東2局はをポン、をポンから加カンしたこうちゃんが、待ちに取らずの待ちホンイツテンパイから単騎に待ちを変化。前に出てくる相手を捉えようという意図を持った最終形で待ち構える。
しかし、瀬川と福本の2人が字牌を絞り、山に残っていたも抑え込んでこうちゃんの単騎待ちは純カラに。そこに、須貝がソーズを使いきってのカン待ちで追っかけリーチをかけた。カンが入っていて打点アップが狙えるとはいえは2枚切れ、ホンイツ模様のこうちゃんにソーズで振り込む可能性も頭をよぎるなかで、これはまさに勇気のリーチ。
麻雀牌は時に、勇者を祝福する。須貝が見事にを引き、1300・2600は1400・2700のアガリ。こうちゃんは広く待ちを取っておけば須貝のを捉えた未来もあり得ただけに、少々悔しい結果に。
そして、このアガリをきっかけに須貝が走る。
東3局には瀬川から3900をアガると、東4局の親番ではリーチ一発ツモピンフの2600オール。好きな役だというリーチをしっかりとアガリにつなげ、3局連続で加点していく。
南1局2本場、親の福本に大物手のテンパイが入った。を鳴いており、ホンイツトイトイで安目でも出アガリ満貫、高目をツモれば三暗刻もついて倍満、一撃で戦局をひっくり返せる。
だが、そこに追いついたのが瀬川。苦しいカンから引き入れての高目三色待ちは、こちらも十分な勝負手。第2 打も煙幕になっている。
これをこうちゃんから一発で捉え、裏ドラこそ乗らなかったがリーチ一発ピンフ三色の満貫を出アガリ。福本もリーチに対して一発でドラを勝負していったが実らず、瀬川が須貝への挑戦権を手にした。
とはいえ須貝のリードは大きい。オーラスを迎え、一番近い瀬川でも満貫直撃、ハネ満ツモ条件と、須貝にとってかなり優位な状況が生まれていた。ただ、須貝は3年前に出場した麻雀最強戦で役満による逆転負けを喫しており、最強戦では何が起こるか分からないことを、身を以て知っている。
手を開けて、どのルートが最も勝率が高いかを探る。まずは中張牌の孤立からの切り出し。
三倍満ツモ条件の福本の手にはが4枚あり、これを即暗槓。須貝としては、これで役満・国士無双の可能性が消えた反面、ドラが大量に乗っての逆転負けもちらつくことに。
須貝が丁寧に牌を選び、巡目が進んでいく。しかしやはり、最強戦の舞台がそのまま静かに決着することはなかった。瀬川が手牌をホンイツに仕上げてリーチ。ツモればリーチツモホンイツ、無条件で逆転のハネ満。出アガリでも一発や裏ドラが絡んで倍満になれば、やはり須貝を逆転する。巡目が深すぎるため、出たらアガるだろう。
そして福本も、三倍満ツモ条件をクリアする可能性をわずかに残す、メンホンダブテンパイを入れた。だが、すでにツモ番は残されていなかった。
そして、奇跡の引きを願い、瀬川が最後のツモに手を伸ばす。
は1枚、王牌に深く眠っていた。
対局が終わり、敗者が勝者を祝福する。そこにはきっと、勝ち負けを超えた麻雀を愛する者同士の友情が芽生えていたに違いない。プロ同士の対局では見られないこうした光景も、著名人戦の魅力の一つだと思う。
4位に終わったこうちゃんだが、雀歴2年とは思えない鋭い選択を要所で見せてくれていた。現在は週に4、5回麻雀を打っているそうで、トッププロと練習をする機会もあり、きっとこれからますます強くなっていくだろう。
3位に終わった福本。オーラスはドラを増やす、しかもそれがになる可能性を信じ、暗槓をしたのだという。しかも裏ドラにはがあったらしい。アカギのようにはいかなかったが、やはりこの人もただ者ではないところをしっかりと示してくれた。
瀬川は決勝卓の2位になったことを「夢でした」と語っていた。どこまでも謙虚、そして楽しそうに麻雀を打つ姿に勇気付けられた人は、世代を問わず少なくないはずだ。年を追うごとに技術も磨いてきていることも十分に伝わり、その麻雀は「来年こそ」を思わせてくれるのにふさわしいものだったと思う。
優勝した須貝は、麻雀の技術面もさることながら、勝負どころでしっかりと踏み込む勇敢な姿勢が非常に印象的で、それが勝利にも直結した。
また、対局中も非常に表情が豊かで、この舞台を本当にエンジョイしていることが画面からも分かる。須貝だけでなく8名全員がそれぞれの麻雀への思いをぶつけ合った今回の大会。勝敗こそついたものの、その気持ちに優劣はない。だからこそ、見ている側としても、すがすがしい気分になれたのではないだろうか。須貝にはぜひ、今の気持ちのままプロにぶつかり、大番狂わせを演じてほしい。
須貝さん、優勝おめでとうございます!
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。