育ってきた環境が違うから……”雀風”が生み出す1/36の選択【Mリーグ2024-25観戦記 10/17 第1試合】担当記者 渡邉浩史郎

育ってきた環境が違うから……
”雀風”が生み出す1/36の選択

文・渡邉浩史郎【木曜担当ライター】2024年10月17日
第1試合

東家:本田朋広TEAM RAIDEN / 雷電)
南家:松本吉弘渋谷ABEMAS
西家:二階堂亜樹EX風林火山
北家:高宮まりKONAMI麻雀格闘倶楽部

不意に考えることがある。”雀風”とは何か、と。

麻雀プロとして生きていると、意外とこの手の質問に答える機会は多い。
門前型、副露型、攻撃型、守備型、手数型、打点型、etc……
定期的に来る質問だからこそ、そこで詰まることの無いよう、ある程度自分の中で分析しているつもりではある。

だが、そもそもニュートラルの基準はどこにあるのかと考える。何と比べて自分は副露多めなのか、何と比べて自分は押しが強いと言えるのか。

かつて勝又健志は似たような話になった時、こう言っていた。
「タイプとか鳴きとか打点とか、みんな麻雀って自分がやっているのが標準だと思いますよね。」
「自分ではすべての選択が平均的だと思ってやっている。」

明確に外れ値的な”普通ではない”選択を意図的にし続けている人でない限り、自分の中の”普通””標準””当然”で麻雀を打っているのだから自己評価も平均的なものになる。だからこそ、雀風の自己評価は難しくなる、というのは言い得て妙だ。

結局雀風などというものは、主体ではなく客体によってこそ真に決まり得るものなのかもしれない。

【東2局】

例えばこの松本吉弘は、ベストバランスを冠する男。そういう客体評価だ。

親番でこの手牌。【發】暗刻とドラ1を活かすならホンイツだけでなく門前立直の道もある。
浮いている【西】を切るのが牌効率上の”一般的”だが、ここは打【3マン】とした。

これはピンズが伸びたときに仕掛けも辞さず、【西】の重なりも逃したくない。そのために受けが被っている+【1マン】が二枚切れで少し機能が弱い【3マン】を見切るという選択だ。

例えばこれが副露型や打点型なら三色も残して【6マン】切りとなるのであろう。門前型なら【西】だろうか。松本の選択はまさにベストバランスの一打と言える。

例えばこの本田朋広は、大胆不敵・無邪気な攻撃型である。

この形から七対子に決め打ち。【中】に狙いを定めて打【9マン】とする。

当然出た【白】はスルーになるが、その間に高宮のリーチ→その宣言牌を松本がポンしてホンイツ模様と状況が動く。ここでイーシャンテンを壊して打【白】となったが……

この【5ピン】に声を掛けた!

自身は赤赤ドラのマンガンが見えるがメンツがない3シャンテン。
どうせ鳴かなくて降りになっても現物の【白】【8マン】と切って安牌が増えるのを待つ手牌である。それなら仕掛けて和了りに行くルートでも瞬間の切る牌は変わらないため、うまく和了り切れた時のリターンを取りに行った形だろうか。

Mリーガー36人の中でこれを鳴くのは本田一人だけかもしれない。先ほど言った外れ値的な、本田としても”普通ではない”と認識している選択ではあるだろう。これをできるからこそ本田は大胆不敵・無邪気な攻撃型という雀風の評価を得ているのだ。

それとは対照的なのはこの二階堂亜樹

本田の仕掛け後にこの聴牌。
安全牌は一枚、通っている筋は6筋/18筋。高めピンフの三面張。
”普通”であれば間違いなく追っかけリーチに行く場面だ。

しかし亜樹はメンツを抜いて降りを選択した。

亜樹目線では全体がどう見えているだろうか。

まず本田は明確に【白】が鳴ける瞬間があったのにも関わらず、スルーして対子落としカン【5ピン】の仕掛け。
今この瞬間に高い聴牌が入っていることはレアケースでまずなさそうである。

親の松本の手はどうだろうか宣言牌の【2ピン】ポン、【東】【西】切りからの【3ピン】プッシュとホンイツ風でこちらは聴牌していてもおかしくない。ピンズは切りたくないと考えるならリーチにはいきにくいだろう。

ピンズは切りたくないが、高宮へのベタ降り失敗もリスクの一つと考えれば、今【6マン】を切ってダマテンに構えるという選択もある。
こちらは和了れるというリターンを得つつ、【6マン】を通すことでのちのベタ降り成功のリターンも上げることができる。これも一つの守備型の選択と言えよう。今期の亜樹ならばこの選択をしそうなイメージもあった。

彼女もまたMリーガー36人の中で外れ値的ともいえる超守備型として、”普通”を逸脱した雀風と評価されているのだ。

そして四人目、高宮まり。レディベルセルク、攻撃型の第一人者といった印象の彼女だが……

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