「リーチ…」
ようやくその声を絞り出したときは10秒が経過していた。
ゼロ秒思考が聞いて呆れる。
己のこれまでを全て出し切り、あとは卓上の抽選を待つだけとなった。
目を腫らしながらツモ山に手を伸ばすが…
最後の一太刀は虚空を切った。
【エピローグ】
こうして私の最強戦2019は完全に幕を閉じた。
もっとこの場所にいたい、という思いは「空中決戦」のときと全く同じだ。
思えば慢心があったのかもしれない。
大和プロが四暗刻をツモって決勝卓進出を決めたとき、少し勝てるかな…と思った。
大和プロはもう出し切ってしまったのでは…というオカルトと、大和プロの遅い展開なら何かしらやりようがあるのでは…という分析と。
対戦相手をリスペクト。1番大事なことを忘れていた私と違い、大和プロは自分の麻雀に一途だった。相手が誰であろうと自分の麻雀を貫き通し、役満一回とハネ満一回で2半荘のトップをもぎとっていった。完敗の一言である。
さて、私の進退だが…
こんな面白いゲーム辞めるわけないじゃん!
である。
いいときもあれば悪いときもある。
寝ぼけまなこで打ったA卓で猛連チャンし、クリアな頭で打った決勝でノーホーラ。
そんなもんだ。
麻雀は思い通りにいかないからこそ面白い。
「だから俺も惚れちまったのかな」
これは某天牌に出てくる、奥寺さんという渋い負けキャラが放った、私の大好きな一言である。
対局後、タクシーで名古屋に帰ろうと外に出たが、ふと思い出して会場に戻った。
「すいません…これ、もらっていいですか!?」
「うーん、本当はダメかもだけど、いいよ、持ってきな」
こうして帰途に着いた私は、毎日目に入る場所に、もらったものを貼った。
これを見る度に、私は思い出すだろう。
興奮して眠れなかった夜を。
本気で戦ってくれたプロたちを。
なかなか出てこなかったリーチの声を。
そして、眩いばかりの光を。
私は、これからもずっと、麻雀道を邁進する。
それはキレイな言葉だけでなく、より本気で取り組まねばなるまい。
いつかまた、あの光の舞台で戦うために。
みなさん、応援本当にありがとうございました。