憧れのあの人をかわせ!
渋川難波、初勝利までの獣道
文・ZERO/沖中祐也【火曜担当ライター】2022年 10月 11日
プロローグ
嵐は過ぎ去った… ような気がした。
ホッとした時点で、僕はもう負けていたのかもしれない。
麻雀打ちなら誰もが夢想したことがあるだろう。
もし、自分がMリーグの舞台に立ったら。
もし、対面に憧れのあの人が座っていたら。
もし――
戦いの前から火花が
アツいカードとなった。
第1試合
東家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)
南家:魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
西家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:仲林圭(U-NEXT Pirates)
新加入選手2人 VS MVP選手2人という構図のように見えるが、新加入の2人同士でも火花を散らし合っている。仲林VS渋川の協会対決だ。
「新人初勝利がキャリーオーバー中です」
と実況の小林がオシャレなことを口にする。
緊張でガチガチだった1戦目はもう忘れた。
「お前だけには先にトップを取られるわけにはいかねぇ」
前途多難の渋
東1局、魚谷がここからをポンする。
やや強引に見えるかもしれないが、配牌から温めておいた字牌によって守備力は担保されているし、その字牌の重なり次第でマンガンから跳満、果ては倍満、役満(大三元)まで見える。
ローリスクハイリターンと言える仕掛け。
この仕掛けを受けた寿人は、ここからを切った。
イーシャンテンとはいえ愚形2つ。基本を問われれば、タンヤオと好形を目指してを切るのが普通だろう。
しかし寿人はマンズのホンイツの可能性がある魚谷の仕掛けに対し、ピンズとソウズのイーシャンテンなら勝ち目があると踏んだ。
を切るまでに要した時間は1秒もなかった。
→とツモって即リーチ。
思考も動作も速い電光石火のこの男にプロ入り前から憧れの念を抱いていたのが、親番スタートの渋川だった。
渋川は直前に
ここから寿人の切ったに合わせるようにを河に置いた。
チートイツイーシャンテン。これまた基本を問われれば打だろう。
チートイツとしての待ちを強くしつつ、の2度受けをツモったらピンフリャンペーコーを望む選択である。
それでも渋川がを切ったのは、やはり魚谷のマンズ仕掛けを見てのことで、チートイツに比重を置きつつ最高形の二盃口だけは残すという意図だ。
さて、寿人のリーチに続き仲林も追っかけてきたところで渋川が手詰まった。
寿人のリーチは何もわからないが、その寿人に対してと押して追っかけてきた仲林のリーチは本物。(実際にドラを4枚抱えた待ちだった)
共通の中筋であるを切ったところで
(俺の邪魔すんなよ!)
と思いながら、卓の下で仲林は渋川の足を蹴った。
(安牌が無かったんだよ!)