麻雀は芸術だ!
麻雀星人多井が織り成す
美の極致
文・渡邉浩史郎【金曜担当ライター】2022年 10月 14日
第1試合
東家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
南家:鈴木たろう(赤坂ドリブンズ)
西家:近藤誠一(セガサミーフェニックス)
北家:多井隆晴(渋谷ABEMAS)
Mリーグの中で「気が付いたら聴牌している選手」ランキングを作成したら、確実に上位に君臨するのはこの男だろう。
受けの名手でありながら、最速最強としてその名を轟かせる男。その手組には芸術品にも似た美しさがある。
【東1局】、ぱっとしない配牌。先手良形・マンズのホンイツ・下の三色のどれかを満たせば手を組んだ価値がある。ここはから切り出す。
そして中盤に高めイーペーコーのピンフ聴牌。当然切るドラのだが……
これは仕掛けていた高宮に捕まってしまう。
注目すべきは多井のがリーチ宣言ではなく、縦に置かれているところだろう。
これは高宮へのケア…… ではなく、上家近藤へのケア。
近藤は2巡目、5巡目とそれぞれ対子落とし、対子落としを行っている。
これはターツを2個嫌ってまでタンヤオに寄せる意味がある手牌だったということであり、近藤のドラポンを想定した上でのダマテン選択だったのだ。
実際に近藤が対子落としの段階でこの形。高宮のロンがなければポンテンの形となっていた。多井の慧眼が光る。
【東4局】
場面は飛んで東4局。流局続きの後に5200を出アガリし、再び2着目に躍り出た場面。
親の多井の配牌がこちら。まっすぐリーチ手順なら他家の風であるから切るが、この手を面前で組んでもなかなかスピードも打点が見込めない。それならピンズのホンイツの含みを残して字牌を大事にしていく。
Wが重なるならホンイツ以外でも仕掛けて中~高打点の芽が見える。ここで1枚切れのを手放す。
Wを仕掛けたところに近藤からのリーチ。一発目に引いてきたのは嬉しいだが、ここは一旦向聴戻し。がセットで落としやすいため、落とし切った後の形で押し引きを決めようという格好だ。
再びイーシャンテンに戻ってきたところでここは目一杯のドラ切り。
明確に通る牌がない以上、ここは自分都合のプッシュだ。
そして近藤からを捉える。5800のアガリで単独トップ目に。
ここから多井が止まらない。まずはホンイツ赤ドラドラの12000。
次局も赤赤の超良形配牌をまとめて4000オール。
悪い配牌でもまとめ上げられる多井にいい配牌が来たらだれも止められない。おまけにこのアガリで点棒も60000点オーバー。鬼に金棒、多井に点棒だ。
【南1局4本場】
ノーテン流局というおよそ最高の形で自身の親番を落とした多井。
面前ならマンガン以上にすぐ仕上がりそうな手だが、ここは何より2着目の親落としが優先。激辛の両面チーから発進する。
しかしここで親の高宮のリーチが飛んでくる。
多井が自身のyoutube「たかちゃんねる」内の検討配信にてこの局を振り返った際、
「瞬間芸としてポンしてカンにするとあがれる」
という発言をした。
なるほど親の河が強く、放銃したくないたろう・近藤はを持っていたらまず合わせてくるだろう。親の一発を消しつつ、瞬間3回の放銃抽選が受けられるというわけだ、
しかし1巡であがれなかった場合は親の安牌を2枚消費したうえで、1枚しかないカン待ちで今後押し引きを選択し続けることになる。実際に多井が選ばなかったように、この点差でその選択をするのは無謀・蛮勇というものだろう。
とはいえ条件戦での絶対に上がられたくない相手のリーチなど、少なからずこの引き出しを使う時が来るだろう。頭の隅に置いておきたい知識だ。